デニロ

子猫をお願い 4Kリマスター版のデニロのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

2001年製作。脚本監督チョン・ジェウン。タイトルから、のほほんとした子猫と女子の話かと思っていたら。112分の中に作者のいろんな思いが詰め込まれていて何とも言えない情感が沸き立ってきます。そして、猫じゃらしで遊ばれていた子猫だって遂には大人になるのです。

きらきらひかる仁川の波止場から数か月後、商業高校の制服を脱いだ5人の女子の姿。『ディア・ハンター』の牧歌的な友情物語から一転、ベトナムの戦場で泥塗れになっていた男子たちを思い出した。

ヘジュ/イ・ヨウォンは親のコネでソウルの投資会社に就職してそのままソウルに引っ越します。テヒ/ペ・ドゥナはボランティアで障がいを持つ詩人のタイピングを手伝っている。その詩人ったらタイプライターを打たせるのよ。で、生計はというと、強権的な父親の下、実家のサウナ風呂を無給で手伝わされているのです。somewhere but not here.今の願望はそこ。ヘジュと大の仲良しだったジヨン/オク・チヨンは就職した会社のリストラという名の首切りであっさり失業。絵ごころがあって外国でテキスタイルの勉強をしたいけど幼い頃両親を亡くし、老いた祖父母と今にも崩れ落ちそうなバラックに住み赤貧状態。天井が崩れ落ちそうなんですけど、大家さんに相談しても、いやなら引っ越したらいいじゃない。中国系のピリュ/イ・ウンシル、オンジュ/イ・ウンジュの双子はチャイナタウンに住み露店でアクセサリーを売っている。制服を着ていた時はみんな同じだったのに。

卒業してもまた会おうね、そんな5人ですけれど生活圏が異なればそんな約束はままならぬもの。都合をつけてたまに会ってもきらきらひかるあの頃は戻ってこない。ジヨンなんて友だちにお金を借りなければならぬほどに切羽詰まっています。わたしはこの女子に感情移入してしまってやり切れませんでした。いつでも奢るよと言われて大の親友のヘジュと待ち合わせしていても彼女はなかなかやってこない。電話しても埒があかない。喫茶店で水しか飲んでない。ブチ切れると、わたしだって用事があるのよと、いなされて、それでもヘジュに会う目的はお金を借りること。止む無く、テヒに連絡して貸してもらう。制服を着ていた頃とはもう違うんだ。

ヘジュから、誕生パーティをしようと連絡を受けた時、テヒは、ジオンにお金を貸したよと伝えると、それ返してくれないよ。分かってる。貸した金は忘れろ、借りた金は忘れるな。金は天下の回り物。誕生日プレゼント。テヒと双子は買って来たけれどジオンにはとても無理。いつか拾った子猫を自分でデザインしたお手製の段ボールに入れて渡す。テヒは、デザインを見止めてくれたけど、ヘジュは箱には目もくれずに、きゃあ可愛いと子猫を受け取る。でも、翌朝早く呼びだされて、飼えないから、と突き返される。

そんなふたりの微妙な変化を気にして取り繕おうとするテヒだけど、ヘジュのジオンに対する態度に、/いま、あんたにとって大事なのは何?/服よ!/・・・・・もう、泣き笑いです。ヘジュにだって事情があるのよ。大企業に就職したはいいけれど、学歴社会ですものと、与えられる仕事は雑用ばかり、一緒じゃないのよ大学卒とは。制服も着なくちゃなんないし。職場じゃ制服は分け隔ての印なのよ。だから身だしなみにお金を使うのよ。女性部長がしてくれた助言の様に、英語で顧客応対できるのだからかんがえを変えれば違う道も開けるのだけれど。だけど、みんなで行ったショッピングセンターで服を買い込んで呆れられる。そんなヘジュを見ながら、何故かテヒはナイフを買うのです。

このお買い物が唐突なので気になります。だから、ジオンの家の夕食でお婆さんがキムチを噛み切れなくて苦戦している姿に包丁で切ってあげると包丁を手にするジオンの姿や、コンタクトレンズが合わなくてレーザーメス/レーシック手術で視力回復したり、ナイフを口に咥えて自分の未来を占うヘジュンの姿が際立って見えるのです。そしてテヒがそのナイフを何に使うのかというと。

5人が最後に集まった双子の家。締め出されて寒い寒いとお騒ぎ。土を掘り堀り暖まるとかもうわけわかんないことになって一晩明かす。久しぶりにはしゃぎすぎて寝入っている中、ジオンはひとりそっと家を出て帰途につきます。/また会おうね。/とメモを残して。家に戻ってみると人だかり。警察や消防や近所の人でごった返している。なんと家が崩れ落ちている。老祖父母は下敷きになって亡くなったという。参考人として警察に連れて行かれると、年寄りが居なくなってせいせいしただろ、と挑発される。そんな警察官に突っかかり、保護施設に収監される。会いに行くのはもちろんテヒだ。/何故、何にも言わないの?警察も困ってるよ。/わたしには行くところがないんだもの。/テヒは、ジオンのお婆さんにいくつもいくつもいくつもお饅頭をもらったことを思い出す。わたしがあんたと繋がっている限りあんたは世界から捨てられていない。子猫はわたしのところにいるんですもの。

テヒがナイフを何に使ったのかというと、家族の集合写真から自分を切り取ること。サウナの帳場から1年分の賃金じゃと札を掴み取る。子猫を双子に預けてジオンを迎えに行く。どこに行くの?空港の案内表示器を見ながら、ふたりは果てしなき流れを掴もうとしている。とりあえず、今はここから、Good Bye

Good Byeは、また会おうね、の印。いつか双子の下に、預けた子猫?に会いに戻るよ。

Morc阿佐ヶ谷 あの頃の5人にもう一度、会いたい にて
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