KUJIRA

オットーという男のKUJIRAのネタバレレビュー・内容・結末

オットーという男(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

こんなにも悲しくて
あまりにも辛い

でも
こんなにも優しくて
あまりにも暖かい

加えて惜しみ無いユーモア

あらゆる感情が押し寄せて、今も消化し切れていない。
でも、嫌じゃない。
スッキリとした後味。

心を丸洗いされた。


キャラクターの濃さが妙にリアル。
縦列駐車して、歩道に乗り上げてぶつける男。その嫁は、パーソナルスペースを飛び越えて懐に入る天才。
独特過ぎる動きのジョギング男。

そして、オットー。
融通の利かない頑固者であり、人の事などお構い無し。
曲がった事が大嫌いで、気になったら放っておけない。
面倒臭いの塩梅が絶妙。だからこそ、好きにならずにいられない、と言うキャッチコピーに共感出来る。

常に眉間に皺を寄せ、気難しい顔をしているオットー。ほんのちょっと頬を緩めたり、僅かに頷いたり、微妙な顔の変化だけで、異常な説得力を炸裂させる名優トム ハンクス。

首を吊ったり、車の排気ガスで死のうとしたり、電車に飛び込もうとしたり、銃で死のうとしたり。本当に心が張り裂けそう。涙が止まらない。
その直後にコントが始まる。
悲しいのと可笑しいのがゴチャ混ぜ。
不思議な戸惑い。
正にオットーと同じ感覚に陥る。

クッキーに舌鼓のシーンが好き。

世話を掛けるが、世話を焼く。
ストレートに感情表現する隣人マリソルに、次第に心を開いていくオットー。

終盤のオットーの善人振りは、ちょっとご都合主義っぽさを感じる。そんなに急に変われるものか。
でも、そんな事はどうだって良い。

ソーニャとの悲しい過去、楽しい思い出。全部話せる様になった彼は最早別人。

疎遠になってしまった友人の為に抗議活動。トランスジェンダーのソーニャの教え子には、サプライズで車をプレゼント。
マリソルには全財産を。

結果的には、理想的な終活。

知的で聡明な美人。ソーニャが全てと言い切れるだけの説得力。
落とした本を拾ってあげて結ばれる。ファンタジーだけど、ロマンがある。
金が無いと発覚した時に、無言でキスして受け入れてくれる女性がこの世に存在するのか疑問。でも、そんな人がいても良いと思える。いや、いて欲しい。

若いソーニャしか出て来ないので、若くして亡くなったのかと勘違い。何十年も苦しんで来たのかと思うと不憫で。
半年前に亡くなったとの事で、それまで幸せに過ごせた訳だから少し安心した。

どこにでもいる様で、どこにもいない。平凡にも見えるが非凡。
マリソルのキャスティング次第で、作品の良し悪しが決まってしまう。
マリアナ トレビーノ、初めて見る人。
ミュージカル出てたらしい。歌も上手いのか。

題材としては、完全に大人向け。子供や若者にはウケないとしても、もっと注目して欲しい作品。
エブエブがアカデミー賞席巻してる場合じゃない。
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