王冠と霜月いつか

怪物の王冠と霜月いつかのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

タイトルと煽り文句と第1幕で、すっかり怪物という犯人を探す様にミスリードされてしまったなあ。やられた。

でもちょっとズルいなーと思うそんな第1幕・母親の視点が、めっちゃくちゃ面白い。息子が体罰を受けた事に抗議に向かう小学校の校長と教諭達の対応の気持ち悪さ、腹立たしさ、不誠実さ。母親の怒りは空回り、小学校側はマニュアル通りの対応しかしない。腹立つ💢 政治家が謝る時の常套句にしている、「遺憾に思います」は、全く謝ってはいない。ソレっぽく見せて、言質を取らせない様にするってのと同じ。母親はシングルマザーで他に頼る者もいない。抗議に来たのに逆に追い詰められるような展開にもなるが気丈に振る舞う。

もし自分が彼女と同じ立場だったら?とても恐ろしくなるシーン。怪物は、保利先生?或いは、校長先生?

そんな第1幕から第2幕へ、視点が、母親から保利先生に切り替わると、アレ?と誰もが思う展開になる。1幕でのあの不誠実な対応の保利先生が実は普通にちゃんとした教師なの?と思わされる…あくまでも、母親視点だとああ見えたという事なの?と。噂話で、火災が起きた風俗ビルに居たというのも(教師だから風俗にいっちゃいかんっていうのは逆におかしい)、恋人と近くを通っていただけだったとわかるし、キャリアは短いものの、まるで人間では無いかのような校長や他の教師達と比べたらよっぽど真面に描写される。

保利先生が体罰を行ったとされた、楓が実は同級生、依里を虐めていたの?

怪物は、依里を虐めていた同級生グループなの? 嘘を付いた(実は付いてはいないけど)あの女の子なの?

保利先生は巻き込まれて、スケープゴートにされただけなの?

その依里も、ソシオパス?サイコパスなの?そしてビルに放火したのも、猫を殺したのも、彼なの?

自分の子供の脳が豚の脳だと言って、躾?虐待?もしていた、依里の父親が真の怪物なの?

過剰に反応したモンスターペアレントと評された母親が、文字通り怪物なの?

孫を轢き殺していながら、罪を夫になすりつけて、子供に足を掛けて転ばすような小学校校長が、ラスボスなの?

誰が怪物なの?
怪物だーれだ?

だーれだ?

3幕になるとようやく、この映画のメインテーマがわかってくる。謎が解けてくる。
上手いね。
流石のカンヌ国際映画祭で脚本賞獲った本だよね。

本人にそのつもりは無くても母親が何気なく言った台詞が、楓を一々否定していたり。

楓が髪を切った理由、水筒に泥が入っていた理由、スニーカーが片方無くなった理由…

保利先生が見つけた依里の作文のメッセージ。嵐の中に、楓に謝罪にやってくる、その謝罪の真意。

保利先生が小学校の屋根から飛び降りようとするのを思いとどまらせる管楽器の音は誰が出していたのか。

認知症で自分が孫を轢き殺してしまったのを自覚していない校長先生の夫。

怪物は居なかった。
誰も怪物ではなかった。どう解釈するか、どの視点から見るかだけだったんだ。敢えて言うなら、異なるものは排除するという世界が怪物かもね。監督が仰ったテーマ→世界は生まれ変われるのか?

ラストシーン、嵐が去って、楽しそうに走り出す、楓と依里。依里は虐待の痕を見せないように長袖長ズボンで通していたけれど、最後に半袖半ズボンを身に着けている。
二人の会話では、「生まれ変わってはいない」らしいけれど、自分にはそうは思えなかった。

“怪物は存在する。幽霊も存在する。彼らは我々の中に住み、時として勝利するのだ” -スティーヴン・キング