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怪物のmfのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

是枝監督x坂本脚本x坂本龍一の日本最高峰布陣。
一つの事実が人によって視点が変わり真実が違って見える。という物語を嗜んで来た観客にはありきたりとも言える作品かと思いきや、後半はそれに留まらない。坂本脚本がそんな安易な展開だけで終わるわけもなく、後半はそれぞれの置かれた立場と正義、嘘、少年達のアイデンティティやセクシュアリティの苦悩、それらの要素により作られたそれぞれの怪物を描く。
カンヌが好きそうな話でもあった。こりゃ楽勝で日本アカデミー賞もゲットな気もする。エンディングは是枝ワールド炸裂、コラボレーションが妙な名作。


郊外。消防車のサイレンが鳴り響く。シングルマザー麦野沙織とその子、湊が住む自宅の近くで火災。その様子を親子はアイスを頬張り眺めている。豚の脳みそを移植した人間は人間?豚?と湊が問う。小学校の担任の保利先生がそういう研究があるのだと言う。
父は亡くなっている。母の前では父の仏壇で近況報告はできない湊。父親はもう生まれ変わっただろうか。
湊は片方の靴がなくなったり、水筒から泥と石が出てきたり髪を切り出したり不穏な動きが見られる。ある夜、湊が自宅に帰って来ず母が車で捜索すると、トンネルから「かいぶつ、だーれだ?」と湊の声が聞こえる。帰りの車中、携帯をイジる湊はシートベルトを外し走行中の車のドアを開け飛び出る。身体は傷だらけにはなったが脳には異常は無かった。湊は自分の脳が異常なのではないかと心配している。保利先生に、湊の脳は豚の脳と入れ替えられたと言われたと母に打ち明ける。
翌日母沙織は校長に直談判。教頭と学年主任が現れると目が虚ろな校長は去っていく。校長は先日孫を亡くしたという。後日保利から謝罪を受けるも保利の嫌々のふざけた態度とサイコパス加減に、沙織は怒りに涙を溜める。保利と校長は、誤解であり、手と鼻の接触があったと言う。
後日また沙織は保利と対峙するが、保利から、湊はイジメをしている、家に凶器やナイフがあるんじゃないかと言われる。怒りに震える沙織は家に帰ると湊の持ち物から着火ライターを見つけてしまう。沙織はイジメの対象と思しき星川依里の家を訪ねる。身体に傷がある依里。しかし依里は湊にイジメを受けているのではなく、校長の前でも保利が湊を叩いていると証言する。後日、保利は会見を開き、湊に酷い言葉を吐いたり叩いていた事を述べ、謝罪をする。教員による暴行はメディアにも取り上げられた。

保利には結婚間近の彼女がいる。火災があったガールズバーには保利がいたなんて話があったがその日は彼女といた。生徒思い。ある日湊が暴れてクラスの持ち物を投げている姿を目撃する。その場で保利は湊に皆に向けて謝らせる。制止した時に湊の鼻に腕がぶつかり鼻血が出た。湊の母沙織が学校に来た時も、事実をきちんと話したいと申し出たが大事にしたくない学校側に阻まれた。保利は確かに湊がイジメをしているとは思っていたが、湊に対し酷い言葉を吐いたり暴行をした事実は無かった。しかし校長始め学校側から、あなたが学校を守るのと言われ罪を背負って辞職に追い込まれた。週刊誌の記者が保利の自宅を訪ね大事になった。彼女も家から出て行ってしまった。
保利は依里の家を訪ねる。泥酔した父親に会うが、依里は脳が豚の脳で、自分が人間にしてやっていると聞く。
家に置いていた生徒の作文を手に取り赤ペンを執る保利。星川依里の作文を添削していると、横読みで湊と依里の名前の隠れ字を発見する。保利は湊が依里をイジめていたと思っていたが勘違いである事に気付く。台風の中、自身の勘違いを謝罪しようと湊の家を訪ねる。しかしそこに湊はいない。母沙織が出てくるに湊が帰らない事を知り、保利と沙織は湊の捜索に出る。土砂崩れのあった湊と依里の秘密基地に辿り着き、二人の名前を叫び続ける。湊も依里も姿は見えない。

依里は父親から暴行を受けていた。身体の傷は父からのものだった。火災のあったガールズバーには依里の父親がいた。依里は着火ライターを所持していた。
依里はクラスの男子からイジメられていた。可愛らしい顔立ちの依里は女の子しか友達がいなかった。しかし唯一、湊は違った。湊は依里と仲良しだとクラスでバレると自分も標的になる事から仲が良いことは周囲に隠していたが、依里と二人で遊んでいた。二人には友達以上の思いがある。依里が男子からイジメられていた教室で、怒りに任せ湊は生徒の持ち物を投げ散らかした。保利が見たのはその一部だった。イジメを受け靴が片方になった依里に靴を貸したのは湊だった。校舎裏に猫の死体があったのを土に埋めて、依里が持っていた着火ライターで燃やした。湊は水筒に泥水を汲んで火を消し依里から着火ライターを取り上げた。
湊と依里はよく二人でトンネル奥の廃汽車を秘密基地にして遊んでいた。動物が描かれたカードを額に付け互いのカードが相手にしか見えないようにしてお互いにヒントを出しながら当てっこするゲーム。かいぶつだーれだ。二人は一緒に秘密基地を装飾したりもした。二人の空間。
湊は依里が父親に暴行されている事に気が付く。依里の性的指向により父親から豚の脳みそと言われている事に気づき、湊は庇うように否定する。しかしある日湊も依里と居ると体に異変を感じる。湊は依里に対して友達以上の感情を抱いていた。依里も同じだったが、動転した湊は秘密基地を出ていく。

湊の母の願いは湊が結婚して家庭を持つこと、保利の教育は男だから、男だろとセクシュアリティを無自覚に押し付けた指導、揶揄されたようなジェンダーレスのテレビタレントのアクション。湊と依里二人を取り巻く世界はそれぞれの価値観に基づく無自覚な正義が横行している。
父親の仏壇の前で湊は呟いた、なんで生まれたの。車中で声にならない声で母親に呟いた、お父さんのようにはなれない。

湊は校長と二人で話した。好きな人がいること。校長は事故で孫を亡くしていたが、運転していたのは自身だが校長という立場ある者として旦那が罪を被っていた。しょうもない、幸せとは誰かが手に入るものではない、誰もが手に入るもの。

依里は祖母の家で暮らすことが決まり、転校する事になった。湊が依里の家を訪ねると父親に暴行され意識を失った依里を見つける。湊は依里を抱え、家を出て台風の中秘密基地へと向かう。台風の中秘密基地に二人。嵐が二人を襲う。
トンネルを抜けると青空。美しい草むら。走り回る二人。生まれ変わったりなんかはしない、今は変わらない。今は、ここ、二人の世界。
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