ハニルくん

怪物のハニルくんのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
1.8
まずは題名のフック、次に導入として感情移入させられるお母さんの視点を通して観客の中につくり出される誤解、その上で後半をすべて使って、同じ時間を子供たちの視点で見直すことによる真実の種明かしという構成の作品である。もちろん、育児や学校教育において、親、教師、担任がそれぞれに不完全な人間として、子供たちの真実を勝手に誤解しているというテーマも重要ではある。ただし、最後に問題の本質が分かった時に、今回の内容に関しては、ふつうに最初から真実だけをそのまま描いても充分に作品として成立し、かなり考えさせられる問題作になるのではないかと感じた。

それゆえ、それを一度あえて誤解させた「装置」に関しては、結局はさかのぼって意味不明で無駄であり、実際、非常に「不誠実」でもあると思った。その「装置」によって、最初に誤解させるテーマは「人間の心を失って非人間的なマニュアルどおりの対応をする教育現場」というもの、続く誤解は、「いやいや実際に今の子供のほうが大人には得体の知れないモンスターなんだ」というもの、その上で結局は、まったく別の、これまた重要な人間としての問題が本質であった。

主人公の少年に「僕はなぜ生まれたのか」とまでいわせる、その「問題」が本来の題名の「怪物」だったということなのだろう。ただ、その上で、このような小さな小学生がその問題にそこまでの深刻さで悩むものなのか、そして創作者の自由でそれを「悩ませる」べきなのか。何よりもこのように刺激的にそれを演じさせ、描かせること自体が、児童人権的に問題があるのではないか、などと考えてしまった。今のジャニーズ問題などを考えても、日本は一種の「文化」としてその問題が歴史的に根深いし、大人によるその身勝手な創作姿勢自体が、日本的な病理である可能性はないのか、などと考えながら、その「不誠実」さに思わず腹が立った。最高の子役たちによる美しい映画であるがこそ、その美しさをつくり出したことが許されないものとなり得るのではないかと悩んだ。