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しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜のTorichockのレビュー・感想・評価

1.9
クレヨンしんちゃんのフォーマットを使った、「上から目線おっさんによる説教」

一体どういうつもりなんだろう?
と途中で思ってしまった。
主題歌を歌うサンボマスターが、ライブで魅せる
「諦めるな」「負けないで」「頑張れ」というメッセージは、サンボマスターが積み上げてきた言霊や魂のようなものが背景にあるから、もちろん心を打つ。
だけど、出てるキャラクターの8割くらい死ね!!と思わせてくれる「劇場版モテキ」や、勘所を外しまくったダメダメリメイク
「SUNNY 強い気持ち強い愛」などを撮ってる人から「頑張れ」とか言われても、うるせえ黙れ!としか思えない。
しかも劇中で新橋の駅前かつ居酒屋出してるけど、この人秋元康〜堤幸彦系列の人でしょ?赤坂あたりの個室バブリーな店の方がホームだろ。(偏見ひどい)

よく言われてることだけど、
「クレヨンしんちゃんの映画は大人が泣ける作品」だ。
だけど個人的に、いわゆる大人が泣ける作品としてのスタンスの踏み外しが気になって仕方ない。
大人が「クレしん映画」で泣けるのは、
大人になって喪失した幼年期のくだらなさや無邪気さ(暴れん坊っぷり)が、クレヨンしんちゃんというぶっ飛んでもOKでめちゃくちゃやってもなんとか許されるフォーマットを用いることによって、懐かしさとバカバカしさとその裏にある素直さとアツさ、見落としていた大切なことに気付かされるような、そんな言語化しづらい感動を呼び起こすと考えている。

だから、「子供がこんなに頑張ってる」とかで泣かせられるような簡素な作りじゃ無理だし、「大人も泣ける」にフォーカスを絞り過ぎると途端にシラけてしまうし、そんな単純な話じゃないんだよ。(「爆盛!カンフーボーイズ」とかちゃんと見返したのかな?)

なんか今ふと思い出したんだけど、これって奇しくも同じく3DCGに挑戦した「STAND BY ME ドラえもん」と同じく【大人を泣かせにかかる】のが見え透いてて、本当にシラけさせていないか?とさえ感じた、あれよりはマシだけど。

なのに、今回は大人へのメッセージが垂れ流しだ。
<未来は明るくないかもしれないけれど、誰か一人でも心を通わせる存在がいれば幸せってもんだぜ>
っていうテーマは100歩譲って言いたいことは分かるけれど、この作品ってどこまで行っても子供を中心に楽しめる作品ってことを忘れていないか?
それともなにか?大根は子供たちに
「この国の未来は明るくないけど、楽しく生きろ」って言いたいのか?

ひろしの靴下の扱いもそうだ。
あれは、野原ひろしというキャラクターが持つ最高品質のギャグ攻撃なのに、
「日本のサラリーマンが家族のために一生懸命働いた証し」とかをセリフで言わせるんだ。
・・・さむっ。
それが死ぬほど臭い!!!っていうギャグなのに、なぜそれを言葉にするんだろう。
テレビでリアクション芸人さんが、これから熱々のおでんと熱湯風呂やります!って時に、テロップで「この人はこのお仕事で家族を養ってます」って出たらどう思う?

あと、今のご時世でも暴力で解決とかマジでアップデートできてなさ過ぎる。
そういうところマジで、おっさんの戯言じゃね?

今回の超能力という題材に対しては、3DCGの効果はバッチリ合っていたし、クレヨンしんちゃんは他の子供向けアニメとは違って、スラップスティックなアクションで物語を展開させるシーンが多いから、3DCGの試みはすごくマッチしていたと思う。
大人の表情のディテールはもう少し改良した方が良いけど、それくらいで全然気にならなかった。
ただし、前段で私が文句をたらたら垂らした
「クレヨンしんちゃん」である必要性やキモみたいなものは今回明らかに外していたなと感じた、説教とかされるの嫌いで育ったから、自分で色々学んだし、その結果としてクレヨンしんちゃん大好きになったのに、またこんな形で説教されるのは本当に気が滅入る。
クレしん映画は微妙な作品もたまにあるけど、シラける作品は正直初めてだった。

二度とクレヨンしんちゃんで、
「この先に明るい未来はない」みたいなテーマを前面に押し出さないでほしい。
嘘とか子供騙しとか現実を見ていないとかではなく、もっと伝え方があるだろ?ってこと。
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