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君たちはどう生きるかのOtoのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.9
深夜25時から上映で新宿の巨大スクリーンがほぼ満席。さすが宮崎駿。

劇場でジブリを観るのおそらく『千と千尋』以来で、結局はほぼ観てるものの「ジブリに育てられた」みたいな人間ではないけど、それでも集大成的な作品を映画館で観られてるだけで胸熱だった。

スラムダンク劇場版の成功でによって、事前情報ほぼ無しでの公開に自信を持ったと聞いたけど、ストーリーや設定は基本的に純粋な「ジブリ」で大きなバズ要素はない(あらすじにしても伝わりづらい)し、むしろ声優・主題歌のような後出しの方が輝く情報が多いから良い戦略だなと思う。

観終わってそのままファミレスで数時間話してなんとなく自分なりの考えはまとまってきたけど、情報量多いから書きながら整理したい。以下、ネタバレを含む。

⚫︎ハレの日
ジブリは「日常の演出がすごい」とか「現実世界へのメッセージ」ばかり褒められがちだけど、やっぱり根本では、人生に1日あるかないかの非日常的な旅を描いているから面白いんだなと改めて思った。

太平洋戦争の火災描写、疎開先での生活、青鷺との出会い、下の世界への旅…ずっと自分が経験したことのない異常な出来事が続く。

そもそもアニメ表現だからこそ生きる表現を追求するとファンタジー的・象徴的な描写が増えるのは必然だけど、観客も作家も「リアル病」になりがちな現代社会で生きる自分には、空想・非日常・旅の大切さを改めて教わったような気がした。

⚫︎アニミズム
田舎のカエルの大群とか、くじらの死骸から出てくる大量の臓器とか、畏怖の対象としての自然や生物も一貫した作家性だけど、自然とどんどん遠いところで暮らすようになった自分たちにとっては、ああいう描写もすっかり非日常。

「難解だ」という前評判を聞いて構えていたけど構成自体はすごくシンプルな往復の旅だし、分解したら『千と千尋』とかほぼ同じな気がする。さらに奥の世界へ向かって戻ってくる物語。
欲深いお婆ちゃんたちみたいなジブリらしいチャームもあって安心して見られたし、ストーリー以前に、映像として眺めてるだけで面白いようなシーンが多いのも好き。

⚫︎「友達をつくる」
でもその上で、大人になってジブリをみると、やっぱり現実世界のミラーであることの素晴らしさにも気づくし、そのようなWhatと上のようなHowが両方あるから、世界的な監督であることもたしか。
ラストの選択肢での「理想郷の世界ではなく、醜い世界に戻って生きていこう」という決断が、創作を通して現実と向き合おうという意思の現れ。

ジブリの主人公はいつも他者や異物を恐れない勇敢な人物で、今作の眞人もそうだけど、その思想も最後の「友達をつくる」にそのままつながる。
学校に馴染めずに自傷した眞人と、赤いペリカンたちの中で浮いた青鷺が、距離を近づけるという物語自体がそれを象徴している。

⚫︎君たちは何を作るか?
一方で、本を読みすぎて頭がおかしくなった「大叔父」にも監督が重なる。
「自分は積み木を重ねてきたけど、それで本当に世界は良くなったんだろうか?」という自問にも見えて、インタビューでも「面白いアニメを作るほど子供は外で遊ばなくなってしまう」ということを語っていた。

自分の身の回りの天空の世界は、たしかに天国のようで美しくなったように見えるけれど、現実を見るとインコたちのようにみな自分たちの利益しか考えられない世界だし、決して悪人ではないペリカンたちもわらわらを食べないと生きていけなくなってしまっている。そんな世界で「創作」に意味はあるのか…?と悩み、後継者を探しながら、古くて美しい世界は崩れていく。

でもそれでも眞人には「新しい積み木」を積み上げてほしい、と伝える大叔父をみて、「君たちは何を作るか?」という話だったのかもしれないと感じた。君たちはどんな世界を作りたいか。「この道が続くのは、続けと願ったから」と米津玄師が歌う。

⚫︎多数のメタファー
人の言葉を真似するインコが人間の隠喩かな、妊娠する人間を禁忌や穢れのように扱うのも差別の象徴かな、13や132という数字の意味は、とかディテールを考え出したらいくらでも話し合えてしまう。

タイトルを借りてきたという小説との関連とかもわかっていないし、鈴木敏夫との関係性も込められているのだろうとか、考察はどれだけしても飽きない。誰がどの声優か理解した上で、また時間をあけて観たい作品。


その他の気づき

・ジブリの人物はみんな呑み込みが早い。予想外のことに狼狽えたりしないで、船の人も「誰かが門を開けたね」で終わり。その展開の速さが気持ちよさを生んでいるのかも。

・下の世界は、キリコが若返っていたから、一瞬時代が違うだけか?と思ったけど、分岐していくパラレルワールドに近いのかな。キリコはおそらく、ナツコが過去に下の世界に行ったときからずっとあそこにいたんだと思ったけど、その解釈であっているんだろうか。

・「たった1日?」みたいなセリフもあったし、時間の流れも違いそう。3日に1つ、13個の積み木を置きなさいというのも、それを感じさせる。

・MCUだったらもっとちゃんと時間軸のシステムを説明するだろうけど、みんな呑み込みがいい人物ばかりなので、そこら辺にはツッコまれない。

・青鷺が眞人を迎えにいったのは、大叔父の命令だとしか思えないんだけど、そういう描写ってあったっけ。そこがまだ引っ掛かっている。
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