みや

朝がくるとむなしくなるのみやのレビュー・感想・評価

朝がくるとむなしくなる(2022年製作の映画)
4.5
「大丈夫大丈夫。あと何年生きると思ってんの」
同じ年頃の娘を持つ身として、上記の母親のセリフに救われた気持ちになった。娘からの思い詰めた告白があった時には、こうした受け答えができる自分でありたいが、まあ、映画同様、父親には告白しないか。(笑)
そうした電話のやりとりだけで、親子関係の健全さがわかるが、その母親にすら退職したことを言えずにいたのは「ちゃんと働いている周りと比べて、私は…」と、自分自身に原因を求めてしまったからだろうか。
家から送ってもらった野菜には手をつけず、レトルトやカップ麺、バイト先のコンビニから買ってきた弁当やおでんで食事を済ませ、肉じゃがを作ろうと思いたっても、醤油が切れかけていることで挫折してしまう。カーテンレールが外れ、せっかく新しくレールを買ってきても、ドライバーが見当たらなくてあきらめる。ちょっと元気を出して買いに行けばいいのにと、観ている方は、小さな違和感を抱くが、その程度の簡単なことへのハードルがむちゃくちゃ高いのは、その分、傷つきが深かったのだということが、次第に観客にも自然と伝わって来る。
唐田えりか自身も、かつてのスキャンダルで、関係ない第三者たちからの「べき」論というバッシングを浴び、傷つきもかなりの深さだったろうと想像する。主人公の希と、彼女自身が重なって見えたが、それこそが監督の意図で、脚本も当て書きだったことをパンフレットのインタビューによって知り、深く納得した。
あえて過剰な説明をせずに、周囲との関わりの中で、少しずつ傷を癒やしていく様が丁寧に描かれていて、とても好感が持てる。
大きな映画館で、満員の観客を呼び込むような映画ではないが、静かに心に響き、いつまでも観た人の記憶に残る一本だと思う。
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