幽斎

呪餐 悪魔の奴隷の幽斎のレビュー・感想・評価

呪餐 悪魔の奴隷(2022年製作の映画)
4.2
恒例のシリーズ時系列
1987年 4.4 Satan's Sleep 元ネタ、日本劇場未公開
2017年 4.0 Satan's Slaves レビュー済、前作、元ネタのリメイク
2022年 4.2 Satan's Slaves 2: Communion 本作、続編
2025年? Satan's Slaves 3 完結編、制作予定

※「悪魔の奴隷」本作にも繋がる伏線の考察をレビューで紹介しております。是非合せてご覧頂ければと思います。アップリンク京都で鑑賞。

元ネタの邦題「夜霧のジョギジョギ」(笑)。カルト的人気を誇る傀作。神を信じない家族に悪魔が憑りつき、魔女が母親や娘の恋人まで殺害してゾンビとして復活。インドネシアらしく彼らを土壇場で救う神とはイスラム教のアラー、イスラム教の宣伝の様な作風が珍重された。イスラム教が絶対君主で、劇場の字幕「回教」日本人には注釈が必要。私は元クリスチャンですが、イスラム教を中国では回教と呼び、同じ漢字文化圏の日本もイスラム教を回々教と呼ぶ。新疆ウイグル自治区で用いた事から転じて、ムスリムを指す。だから仏教の中国は執拗にイスラムの新疆ウイグル自治区を弾圧するのだ。

日本で観れる「夜霧のジョギジョギ」純粋なインドネシア産では無く、アメリカの配給会社が再編集したモノで、尺も微妙に異なる。Sisworo Gautama Putraは本国では著名な映画監督で元ネタを含め多くのオカルト作品を残したが、1993年1月惜しまれながら此の世を去った。インドネシア映画では珍しくアメリカでの認知度が高い「夜霧のジョギジョギ」リメイクするプランが浮上、抜擢されたのがJoko Anwar監督。彼も「Fiksi.」サイコ・スリラーで注目された俊英、前作「悪魔の奴隷」インドネシア歴代No.1ホラーとして、インドネシアのアカデミー賞「インドネシア映画祭」7部門受賞の快挙を成し遂げた。日本でも未体験ゾーンの映画たち2018で上映された。

「夜霧のジョギジョギ」通過儀礼で良いと思うが、前作の予習はほゞ必須と言える。悪魔の恐怖と言うホラーだけでなく、前作で放置された謎について、伏線を補修するスリラー的な部分にも注目が集まる。前作と比較すると本作は意図的に画調を暗くしてアジアンテイストの真骨頂「ジメッと感」も強調。いきなり本作を観た方も、普通のホラーとして楽しめるが、「悪魔の奴隷」を見ると更に頷ける事は間違いない。因みに「ヘレディタリー/継承」の元ネタが「夜霧のジョギジョギ」と言う噂も有る(笑)。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

前作で父親は病弱な母親と子供の為に尽くす、優しい性格の人物として描かれる。しかし、中盤辺りで突然消息を絶って終盤に戻って来た。時間の経過について前作では語らず仕舞いで、アジア映画らしく「言わなくても分かるでしょ」的な演出を深読みすれば、信仰に無関心なのに戻ってから人が変わり、神への言葉を口にする。本作では更に性格が変質、無愛想で喋らぬオーラまで醸し出す。伏線の終着点として殺人を繰り返す事で、教団との関係を断つ契約も判明するが、前作で描かれ無かった「空白の時間」教団へ交渉へ赴いた事がラストシーンで互解する。

前作が一軒家と言うプロットに対し、本作は高層アパートと言う設定ですが、スリラー的には「横の変化」から「縦への変化」、レトリックを立体的に見せる常套手段と言えるが人数を増やした事で、恐怖感を倍増させるのは続編映画の宿命。停電と言うホラーの十八番を持ち出す事で、観客に忌まわしい展開を分かり易く見せる。蘇った死者がアパートの住人に襲い掛かるが、秀逸なのはシリーズのテーマ「反イスラム教=悪魔教団」スポットを絞る事で、不気味さの加重も増してる。

イスラム教を中国では回教と言うが、イスラム教徒がメッカを巡礼する時、神殿をぐるぐる回る事からそう呼ぶと言う説も有るが、本当は他の宗派を排除して取り囲むと言う比喩も有り、比較的穏健な仏教や、多様な考え方を認めるキリスト教とは違う、1か0かと言う極異性が他の宗派から見れば恐れられ、現在でも諍いや争いが絶えないと元クリスチャンの私は思う。今は回教を改め伊斯蘭教と言うが、偶像崇拝を徹底的に排除、神への奉仕を重んじる彼らに怖いものなど何もない。

本作も家族を監視する住人が描かれ、ホラーと言うセグメントの不気味さも増す。アパートの全員がソウでは無いが、私達と同じ様に彼らは仕事や家庭の事情で裕福な人ばかりでは無い。富裕層が宗教に無頓着な様に、経済的に恵まれない人達を救うのが宗教だが、一方でその人達を利用するのも教団と言う組織なのだ。前作で一軒家から逃げる家族に父親が「帰る場所は有る」住む所は既に決まってる理由も判明。悪魔教団が住人を取り込む事が目的としたら、国が管理する土地に建つアパートは悪魔教団の本拠地と観客にも分かる仕掛け。更に高層アパートが悪魔の「墓標」で有る事がラストシーンで分る。

恐怖の連鎖と言う意味ではレビュー済「女神の継承」同じく、本作はアジア映画らしい、ハリウッドと異なりホラーの演出がキメ細かく丁寧な創りが秀逸。際立って目新しいプロットは無いが、定番に定番を重ねる王道スタイルは、台湾映画「呪詛」もソウですが、今後も目が離せないのとは対照的に、日本のホラーのレベル急降下は目を覆う惨状。レビュー済「N号棟」アメリカ映画のパクリならマシな方で、演技の下手なアイドルを主演に据えた作品ばかり、Jホラーが女子高生ホラーと言う意味に転落してる事に、邦画界が何の憂いも感じない事の方が本作よりも末恐ろしい。

原題「Pengabdi Setan 2: Communion」悪魔の聖体拝領、聖餐。呪餐とは呪いの晩餐。
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