CHEBUNBUN

The Happiest Man in the World(英題)のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

4.5
【婚活パーティで出会ったのは「赦し」を求める男だった】
北マケドニア出身監督であり日本でも『ペトルーニャに祝福を』が公開され知られるようになったテオナ・ストゥルガル・ミテフスカ最新作『THE HAPPIEST MAN IN THE WORLD』を観た。本作はタイトルとは裏腹に女性が主人公の話である。これは女性が「幸福な男性」を生み出すために消費されてしまっていることを告発するタイトルになっているといえる。実際に観てみると、壮絶な内容であった。

正方形の画の中で男が首元を掴んでいる。やがて彼が飛び降りようとしていることが分かる。地上では廃墟となり崩された建物の残骸と思しき場所から女性が空を見上げている。女性は歩く、そして会場へと着く。「ランチは魚にしますか、肉にしますか?」と機内食を選ぶかのような質問に答え、十字架に配置された鏡で容姿を確認し、席に着く。ここは婚活パーティの会場なのだ。

ここではユニークな方法で男女が親睦を深めあう。目の前に緑と赤のボタンがあり、互いに会場から出題されるお題に答えたタイミングでボタンを押すのだ。

最初は、

「好きな色は?」

「好きな季節は?」

といった他愛もない質問が繰り出されるのだが、中盤になってくると、

「あなたは90歳ぐらいです。30代の肉体と30代の精神、どちらか手に入るとしたらどれを選びますか?」

「真実を映す水晶があります、あなたは何が見たいですか?」

「あなたの人生をできるだけ詳細に語ってください」

などといったハードな質問になってくる。

アシャ(JELENA KORDIĆ)は、相手の銀行員ゾラン(ADNAN OMEROVIC)と質問に答えていくのだが、突然彼が「あなたは嘘をついている」といって走り去ってしまう。この婚活パーティは運営のケアが良くない。彼女は周りが質問に答えている中、やることを失ってしまう。携帯電話をいじっていると、「それはおやめください。」といわれ、別のパートナーに変えてほしいというと、それもできないという。「辛抱強く待つのよ。」と言い放たれてしまうのだ。やがて彼が戻ってくる。そして対話を再開する中で、彼は昔彼女を撃ったと語り始める。

彼はこの場で愛を育むのではなく、赦しを乞いに来ていたのだ。彼女にとって折角の婚活パーティなのに、赦しを求められ、男の身勝手な浄化に手を貸す羽目となった彼女。彼だけが幸せになるのはどうか?彼女はフラストレーションを高めていき、会場を巻き込み始めるのだ。

本作は安易に男に赦しを与える存在として女を描くことはしない。また、男を突き放すだけのこともしない。対話の中で生まれる平和というものを描いている。それはイバラの道であり、互いに傷つく。しかし、そうでなければ互いに救われることはないと描いている。そして、見て見ぬフリする群衆をも巻き込んで議論を投げかける。終始居心地の悪い映画であるが、そこにある緻密な社会批判は『ペトルーニャに祝福を』からパワーアップしたものを感じた。岩波ホールが閉館してしまっているので日本公開は難しいと思うが一見の価値ある作品といえよう。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUN