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マン・オン・ワイヤーのarchのレビュー・感想・評価

マン・オン・ワイヤー(2008年製作の映画)
4.7
74年8月7日に起こったフィリップによるWTCでの綱渡りをこれでもかとケイパームービー的に演出し、そして1つの偉業として描いて見せたドキュメンタリー。こんだけ再現映像が入ってるドキュメンタリー映画も少ないが、なにより実録の記録映像と見事に調和が取れているのが素晴らしい。



本作を傑作たらしめるのは二つの要素。ひとつは雄弁で尊大な語り口のフィリップの人物的なチャーム。もう一つは、その再現映像と記録映像の調和だ。

フィリップが自分の武勇伝をどこか誇張した詩的表現でしゃべり続けているのが面白い。そういう性格の人間だからこそ、この綱渡りは発生したんだなぁと一発でわかるようなナルシストっぷり。だがどこか目を離せないチャームがある。途中カーテンに隠れて、当時どう隠れていたのかを示すシーンが映されるが、指示なく勝手にやるんだから撮りがいがある。そんな彼の語り口によってこの事件は、ある種の伝説として昇華されていくのだ。

そんな彼の語り口に釣り合うように再現映像が入れられていく。当時の記録映像と混ぜ合わせてもシームレスになるテイストにしているのも凄いし、ドキュメンタリーにおける「真実」の語り口としてこんなものもあるのかと唸ってしまう。
つまりケイパーものとして描き、当事者が感じていた緊張や高揚、不安を正しく映画に持ち込むには、その一見フィクションに寄りすぎな方法しかなかったのだと唸ったのだ。
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