ひこくろ

碁盤斬りのひこくろのレビュー・感想・評価

碁盤斬り(2024年製作の映画)
3.6
出ている役者さんはみんな上手いし、映画もしっかりと作りこまれているので、観ていて普通に面白い。
ただ、時代劇としてはしっくりとこない印象を受けた。
理由は、主人公の柳田格之進にあるように思う。

正義感が強く卑怯なやり方を嫌いぬく柳田は、武士としての誇りも人一倍強く持っている。
それはいかにも武士らしい姿なのだが、その度が過ぎていて、かなり異質に見えるのだ。
例えば、金を盗んだという嫌疑をかけられた時、「侮辱するな!」と柳田は激怒する。
ここまではいい。
その後、「侮辱を受けたままでは生きていられない」と急に切腹を決意する。
は?

さらに、娘のお絹に説得され切腹を思いとどまった彼は、今度は娘を質に金を工面し、それを相手に突きつける。
え?
そして、「もし金が出てきたらお前の命をもらう」と啖呵を切る。
もう、わけがわからない。

盗んでいないのだから、正々堂々と否定して、それを貫き通せばいい。
それが筋の通し方だろうし、もっと言えば正義というものだろう。
でも、柳田は己の正義を明後日の方向に勝手に貫いてしまう。
その理由が「武士だから」と言われても、これは納得がいかない。

でも、柳田は万事が万事、この調子なのだ。
ほかの登場人物がわりとみな現代的な感覚でいるだけに、この異質さはとても目立つ。
なんと言うか、観ているうちに、一人のサムライがタイムスリップして現代にいるかのような感覚に陥ってしまうのだ。

感情によって碁の打ち筋が変わるところや、役者の所作の美しさ、斎藤工の悪役っぷり、殺陣など、面白いところや見どころは多い。
このわけのわからない難しい役を草彅剛もよくまとめ上げて演じたと思う。
それでも、柳田格之進の異質さは、この映画を変な方向に進めてしまっている。

最後にすべてを丸く収めて、めでたしめでたしとしてしまった点もどうかという気がした。
そこまでの話はなんだったんだろう、という気分になったし、なにより柳田格之進がそのまま全肯定されているようで、腑に落ちなかった。
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