ひこくろ

ミッシングのひこくろのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.6
あまりにも苦しくて辛い、救いの見えない映画だった。

行方不明の娘を探す夫婦は世間の悪意の数々に晒される。
愉快犯のようにいたずらを仕掛けてくるネットの人々。
いわれのない誹謗中傷。
現実社会の無関心さ。
ひとつひとつの悪意は小さなものでも、絶えず浴びせられれば影響は大きい。
沙織里は徐々に弱り、追い込まれ、おかしくなっていく。

そんな彼女が頼りにできるのは事件を報道してくれる地方テレビ局だけ。
でも、そのテレビ局もセンセーショナルに事件を扱おうとしてくる。
結果、番組放送後、人々の悪意はさらに高まってしまう。

悪意に包まれながらも、沙織里はもがき続けるしかない。
もがくのをやめたら、もう娘は見つからないからだ。
だから、テレビの方針に賛成できなくても、また縋ってしまう。
縋ることしかできない。
この残酷さ。

しかも映画には救いがほとんどない。
悪意は嵐のように降りかかってくるし、事件解決の目途も立たない。
正直に、観ていて辛さしかない。

それでも、監督はわずかな善意をぎりぎりのところで掬い上げようとする。
悪意に晒され続け、娘のことしか考えられなくなったっておかしくない沙織里が、あることに対して「よかったぁ、本当によかったぁ」と泣き出すシーンは、そんな善意の表れの頂点だろう。
「お前は、すごいよ」と涙ぐむ旦那の言葉がそれを物語っている。

善意によって救われることはなかったとしても、それでもそこに善意はある。
それは監督の願いのように感じられた。

役者さんはみんな素晴らしい演技だったけど、なかでも、弱り、混乱し、絶望し、怒り、常軌を逸していく沙織里がすごかった。
ちょっとこれまでに見たことがないような石原さとみの演技は、震えがくるほどで、まさに体当たりの演技だと思った。

どこまでも救いのない映画だと思う。
けれど、描かずにはいられなかった映画だとも思った。
監督にとって、役者陣にとって、叫びのような映画なんだと感じた。
ひこくろ

ひこくろ