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逃げきれた夢のdarumaのレビュー・感想・評価

逃げきれた夢(2023年製作の映画)
4.2
光石研さんに惹かれて。二ノ宮隆太郎監督の商業デビュー作。これ完全にドラマ「デザイナー渋井直人の休日」(キャラが!)私の大好きな光石さん…と思いながら、ちょっと眠かったのでぼーっと観ていましたが、終盤で泣きそうになった。ヒリヒリする。

ラスト、前フリとの呼応が気になりすぎて、どこだったっけ…!?DVD巻き戻してめちゃくちゃ探した。吉本実憂さんの台詞だと思って、出ている所を全部観たのに出てこない…でもめっちゃ印象的な台詞で、生徒役の人だったはずなのに…すっごく探してわかった。杏花ちゃんだった!!(佐藤さん役)しかも彼女の名前が出て来ず(お顔はわかるのに!)、エンドロールで「そうだったそうだった!」ってなりました…

光石さんは定年間近な定時制高校の教頭先生。
あの優しい感じがとても似合います…渋井さんと同じく、ヘタレな感じも。
でも!
実は光石さんって、目が笑ってないんですよね。
勿論、心から笑ってる時もあるんですが、笑ってるのに目が違う時、ありませんか…?(なんかヤクザみたいだな、笑)
あと、死んだような目、とか。
そういうのがめちゃくちゃうまいです…!

光石さんの単独主演は「あぜ道のダンディ」以来だそうです。
まさに!光石さんがどの場面にも出ていて、光石さんファンの私にはたまらない作品でした。

そして、これは光石さんのアイドルムービー(違!)にとどまらず、かなり難しい問題を抱えています。
わりと序盤から出てくるのでネタバレにはならないと思うんですが(公式のストーリーの導入にも書いてある)、おそらく認知症が出始めている…
光石さんのお父さん役の方が実際のお父様らしいのですが(!エンドロールに同じ光石姓の方が出てきます)、まずその方の設定がおそらくそうで、その父を抱える光石さん…という複雑な役どころ。最初からお父さんを見る目がなんか不穏だったのはそういう事か…

製作が木下グループなんですが、まさに!というテーマ。
(最近、高齢者ターゲットな作品が多い印象です)

中年の悲哀にとどまらず、現実的な面をかなり描いている。
タイトルが深い…(逃げきれない)

(余談ですが光石さんと二ノ宮監督は事務所が同じで、木下グループ傘下です。なのでPVでもおかしくはないです…)

そして、若手が良いです。
娘ちゃん役が「のぼる小寺さん」の工藤遥ちゃん。
今までに観た彼女、いつもいい感じなんですが、本作はちょっと撮る側がその評判を大きく買いすぎていた感はなくはなかった…(間がギリギリ持つか持たないかの瀬戸際な演技。台詞がめちゃくちゃ少ないので)けど、フレッシュなのに大御所感の安定な感じはよかった。

冒頭に書いた、印象に残る台詞を言う杏花ちゃん。
「グッドバイ、バッドマガジンズ」の方です。
ワンシーンしか出てきませんが、目ヂカラと説得力が凄い。

そして、吉本実憂さん。
この方は「瞽女GOZE」がめちゃくちゃよかったんですが(おすすめ!)、本作も凄く重要な役どころをとても魅力的に演じられていました。
一瞬、小悪魔的な感じになります…それも上手いです!
とにかく、ヒリヒリします。

彼女が気持ちを吐露した時、私も光石さんと同じ顔をしていたと思う。
言葉を失って、泣きそうになった。
その光石さんの表情が忘れられない。

でも、しばらくすれば元通り。
人は繕いながら生きていくんだなぁ…と思った。
気持ちをうまいこと繕って、人に見せられるような表情をして、何とか生きていく。

後で予告を見て知ったのですが、本作は2019年フィルメックス新人監督賞グランプリ受賞作品(脚本)だったんですね…めちゃくちゃ納得。

制作がコギトワークスさんで、これまた納得。
どこにも行き場のない気持ちを表現させたらピカイチの制作会社だと思います。

二ノ宮隆太郎監督、私はまだドラマしか観た事無かったんですが、結構エキセントリック系だったんですよね…ちょっと何言ってるかわからない(笑)、みたいな。本作もややそういう所がなくはないのですが、軽~い気持ちで観始めたら、意外とヘビーで驚いた。他の作品も是非観てみたいです。

少し大げさな言い方かもしれないが「和製・ファーザー」という印象を受けた。
社会派好きな方におすすめです。
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