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ナショナル・シアター・ライブ「ベスト・オブ・エネミーズ」のarchのレビュー・感想・評価

5.0
大傑作だった。ロバート・ケネディが暗殺され、ジョンソンも辞退。民主党候補が立たず内部分裂しかけてる中、1度JFKに敗北したニクソンが共和党候補として挙がる。
舞台はTV。右派代表のバックリーと左派代表のゴアによ罵詈雑言飛ぶ討論番組がはじまる。

68年という時代の節目感。ベトナム戦争に対する反対、共産主義への不安、ロバート・ケネディの暗殺など、あらゆる不安が健在され早くも夢と改革の60年代が終焉を迎えようとしているその瞬間を、テレビというメディアと2人の知識人の実際にあった討論を軸に捉えていく。

イデオロギーの対立が「カメラの前に立つ」ということの異常性によって、次第に個人攻撃に代わっていく。舞台自体がある種のリングのようになり、対立構造を煽っているのも上手く、彼らを上から監視し、見世物にしようとするTVの構図もうまい。
彼らの政治思想の対立、及びシニカルで下品な罵倒の連続に笑いもこぼれる中、起こるのがシカゴにおける民主党党大会に対するデモ。(『シカゴ7裁判』に詳しく書かれている。)
彼らのテレビで行われる行為に、政治的な貢献はあるのか。本当の"前線"は外の世界に広がっている。彼らの言葉遊びに、意味はあるのか。
そのシカゴでの事件後に、バックリーは放送禁止用語を発し、汚名を刻むことになる。
このタイミングで、最もフィクショナブルな10年後のメディアアナリストが登場するのがいい。事実をなぞるのではなく、想像力を駆使したテレビを前にしない対話が行われる。
それを踏まえての第8回討論にいく。
そこではテレビへと矢印は向けられる。

端的にいってライバル同士の共闘として胸熱。だがそれ以上に、今彼らにできることとして、自分たちの道化ぶりを自覚し、テレビというメディアに楯突くことなのだ。実に痛快。
もしこれが舞台限りのフィクションならなんて飛躍だろう。素晴らしい。

出来れば生で見たかった。ここ最近で一番感動した。
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