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落下の解剖学のogiharaのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.8
裁判ものあるあるネタである、判断[judgement]とは根本的に「決断」であり厳密な意味で論理的な演繹ではあり得ないという主題。他にも、夫婦間の家庭における役割についても私たちに問いかける作品で、その側面では『マリッジ・ストーリー』とも主題を共有している。監督と脚本のふたりは実際にパートナー関係にあり、メタ・メタフィクションのような構造をとっているのも面白い(むしろこうならないように、という願掛けを込めているらしい)。

判決について言えば、当の結果が事実に即しているかという私たちの疑念は、判決を聞いてもなお晴れることはない。その理由は単に裁判の判決が原理的にそうならざるを得ないというだけではない。その印象に説得力を与えているのが他でもないサンドラ・ヒュラーの演技であり、被疑者である妻の不透明さ・底知れなさを見事に演じている。その意味で本作における彼女の貢献は大きい(サンドラが演技の方向性について積極的な提案をおこなっていたことが監督インタビューから知ることができる)。

残念ながら自分は、パルム・ドールにまで手が届いたその決定因を見出すことができていないのだが、それもあくまで「多分に主観的な見解」ということ。サスペンスとしては充分楽しめた。
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