DJLastChristmas

市子のDJLastChristmasのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.0
杉咲花がすごすぎた。
芥川龍之介『藪の中』的な第三者の視点からの市子描写は『怪物』も想起させる。それは時間軸を行き来しながらの市子描写なので、『ちょっと思い出しただけ』の手法にも似る。

城定イハさんと青くんのコンビや、ちはやふるの机くん、石川瑠華さんなど日本映画の若手名優揃い踏み。

市子の過去や生い立ち、事件を巡るサスペンスやミステリーの映画かと思いきや、ラストはここぞという所で『ニュー・シネマ・パラダイス』的な生き生きと幸せに満ちた市子を見せつけられる。ずるい。

カメラワークと市子の心情とのシンクロ。9割9分が不安定な手持ちカメラで撮影され、そのぶれが市子の揺れ動く心情とリンクするかのよう。海で決心、決断する市子のシーンだけ(おそらく)は固定カメラとなり映像美に心が掴まれる。

フィルム写真の日付表示とフィルムカメラ、花火、浴衣、ガリガリくん、ケーキなど時間軸を超えてキーアイテムを散りばめる脚本も見事(監督はきっと物派の思い出マンなのだろう)。

言葉少なく陰を感じる市子の不思議な佇まいが何故だかものすごく魅力的。一見静かでぶっきらぼうに映るかもしれないが、芯がありきちんと意思を持って動き続ける市子。通り雨に打たれて最高となる市子にもグッときたし、ロケット花火打ちつつカーライトを浴びる市子の登場シーンなんかは白眉。画としてカッコ良すぎた。

自分に名前があって親がいて、家族がいて、日常を過ごせていることの幸せを逆説的に市子に教えてもらった気がしました。家族や生き方には人それぞれに多層のグラデーションがあって、マイノリティを知らないうちにネグレクトしてしまっていた日本社会、法律の仕組みの不備を浮き上がらせる市子の存在にありがとうございますと感謝するクリスマスイブ。
市子の鼻歌をそのまま使ったエンドロールも最高。
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