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悪は存在しないのDJLastChristmasのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0
ゴダールっぽい白と青の題字、石橋英子によるジャズからの幕開け。空に向けてカメラを構え、木々が上から下へと移動する。そのカットは5分ほど続く。花が学童から帰る(居なくなる)と、また林のカットが始まり今度は木々が下から上へと移動する。花が学童へ通う朝夕の目線だ。

クマみたいな花の父親。濱口的棒読みで的を射た短文を発し無双する圧倒的存在感はどこかジブリ。

『GIFT』では描かれなかった東京の芸能事務所を巡るカットが大幅に増えていた。濱口らしからぬ俗っぽさを感じるGoogleミートのシーンや2人組の車中の会話シーンなど。それら俗のシーンやセリフが無い分、『GIFT』は上品で洗練された印象を受けたが、本作は多種多様な俗も雅も含む人間模様を描けているという点で射程の拡がりを感じた。

いわゆる田舎と自然と東京の話だけれど、濱口はそれらを二項対立、三項対立という単純な構図では切り取らない。例えば東京の芸能事務所の男女二人組はやりたくもないグランピング場の建設計画に携わる。冒頭では東京を見渡せばどこにでもいるようなビジネスマンとして描かれるが、巧たちと対話を重ねることによりビジネスマンの仮面が剥がれていく。

自然・動物・人間問わずバタフライエフェクトのようにある者のある行動が他所へと波及していく。

人を襲う条件が揃った、手負いの鹿の親子との対峙シーン。オレンジマンは花を助けようとする。巧はオレンジマンの首を締めて気絶させてしまう。それがどうしてなのか腑に落ちなかったが、数日経ってこれは報いを報いとして受けいれる覚悟を決めた巧なりの自然に対する礼儀なのだと思った。巧は頭がおかしい。

それにしても客の年齢層が高かった。
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