たいが

悪は存在しないのたいがのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2
木々の間から空を見上げるショットから始まり、これが体感5分ほど続く
しばらくすると誰かの足音が聞こえてきて、空を見上げながら歩く少女が映る
さっきの空を見上げるショットは彼女の視点だったのかとここで分かる

オープニングからかなり贅沢な時間の使い方
106分、このペースでどうやって話が展開していくのだろうかと不安と同時にワクワクも感じる

水は上から下に流れる
どんな事象にもそれの元となるようなものが上流にある
だから部分部分で見た時に明確な悪というものは存在しない
主題は比較的分かりやすかったと思う

じゃあそれをどういった形式で表現しているのかというところになるが、これが本当に卓越していたと思う
明らかに恣意的な巧の台詞回しやカメラの置く位置、ぶつ切りで切り替わっていく劇伴や作中での音
説明的な描写が少なくても、映像や音でここまで雄弁に語りかけてくるのかと本当に圧倒された

あぁ、幸せだ
こういう自分の理解を超えた映画に出会えることは映画を観る上での喜びのひとつだ
少しずつ理解して読み取っていく過程が楽しくてしょうがない

贅沢でゆっくりした時間の使い方のこの映画は唐突にも思える展開によって終わりを迎える
でも確かにその兆しはあった
鹿について車内で話しているシーンで巧の顔に落ちる影
白骨化した動物の死骸や時折響く発砲音
そう考えるとあの出来事は唐突なものではなく必然なものだったということだ
たいが

たいが