8Niagara8

悪は存在しないの8Niagara8のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
5.0
やはり絶対悪の否定か。
自然の雄大さにフォーカスする地平まで続くようなショットの数々。
圧倒的映像と会話劇による没入感に時間を忘れる中での、突然のラスト。あまりにも多くの余白を残しており、それは画面の外であるが、この世界の片隅以外のあらゆるものに考えを巡らす。
自然界にあるバランスというものは想定の範疇ながら、一方でその地続きというか、延長線上にある、我々の社会にも存在するのだろう。

単調な会話だからこそ見えてくる、発する言葉の刺々しさ。
他方住民たちの不安の声には多分に論理的であり、コントラストとしてもコミュニケーションの歪さが現れる。ただしそこでは理性的な会話を声高に求める。
このエクスキューズがアイロニカルで計り知れないエネルギーを及ぼす。

車のシーンとか相対的な悪に満ちているし、場面が変われば悪がアメーバのように変容する。主観転じて人間の限界というか不可能性。
人間があれこれする、すぐそこに自然はなんの価値性を帯びることなく横たわる。

映像と音楽が高次元でマッチし、相変わらずの石橋英子の手腕に感服。個人的には『ドライブマイカー』以上の劇伴。
ジム・オルークのギター良すぎる。タイミングも完璧。
監督の一つ集大成になるだろう。
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