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悪は存在しないのryoのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

音楽をベースにした制作経緯。
そして都市を離れて郊外の自然にカメラを向けた舞台設定。
(ただし、人間が開拓した都市の延長線にある自然が舞台。だからあくまでメインは人間社会。)

これまでのように言葉や会話を用いた密度の濃い作りではなく、
ゆったりと余白を用いながら静かに、でも気づいた時には全て巻き込んで物語が流れ込んでくる強度の凄さ。

冒頭。
水平に移動しながら、木を下から映すシーン。
一本一本の木の枝のラインの細かさ、そしてレイヤー、奥行き。こんなにシンプルでミニマルな映像で引き込まれ、そして世界を感じる。この冒頭で何かこれまでの濱口映画と違う感覚に。

冒頭、巧の不自然でぶっきらぼうな演技に最初は違和感を覚えるが、
徐々にそれが『分からなさ』として、リアリティを帯びていった。
巧の徹底的な分からなさ。
それに加えて、子供らしい純朴な花の表情にも時折見える分からなさ。

そして、
霧の中、森や家々に流れる行方不明のアナウンス。何かこれまでの全ての事が流れ込んできたような空気感。

巧のラストの行動の真意は分からない。
ただ分からないのにも関わらず、
それまでの銃声・鹿・グランピングなど、この世界で起きている全ての偶発的に見えた出来事が、水が上から下に流れるかの如く、ラストのこの世なのか分からないあの場に流れ込み、
必然的に且つ自然にあの出来事が起こったように感じる。
偶発性を必然性にしてしまう物語。

純粋な悪など存在せず、
どこか遠くの意図しない物事が、
世界のどこかにある谷のような場所に流れ込み、純粋な行動として悪のような事を生み出してしまう。
そう言った意味で純粋な悪は存在しないのかもしれない。
一方で、悪をも生み出してしまうどうしようもない世界の繋がりの存在、
また繋がりの中でのバランスを保つ難しさを思う。
ただ、この繋がりは決して悪だけを繋げるのではなく、勿論美しさや愛も繋ぐはずと思う。

『親密さ』の暴力の詩を思い出す。
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