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悪は存在しないのtakaoriのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.4
2024年113本目
劇場42本目

『ドライブ・マイ・カー』のアカデミー賞受賞で一躍世界的映画作家となった濱口竜介の最新作にしては、ずいぶん公開規模が小さくミニシアターでしかやっていない。今回は、昨年惜しまれつつ閉館した名古屋シネマテークの跡地に復活したミニシアター「ナゴヤキネマ・ノイ」で鑑賞。劇場は満席で、なんと両脇の通路にパイプ椅子を出してあふれた観客を収容していた(笑)。こういう柔軟さはミニシアターならではの楽しみである。
映画の内容は、確かにこれはシネコンでかけるものではないなと納得する静かな人間ドラマであった。満席の劇場では、船を漕ぐ人の姿も少なからず見られたが、個人的には『ドライブ・マイ・カー』より楽しめた。会話劇の作り込みがとても良くできていて、中盤の見せ場となるグランピング場の説明会のリアルな雰囲気や、その後の芸能事務所でのコンサルとの空虚な会議、そして車で再び諏訪へ向かう車内での高橋と黛の会話など、どのシーンも良い。「これは、君の物語になる」というキャッチコピーがまさにしっくりくる感じである。車内の会話のシーンが多いのは、濱口竜介が敬愛するヴィム・ヴェンダースの影響が強く見て取れ、ちょうど今「午前10時」で公開中の『パリ・テキサス』と通じるものを感じた。
序盤の何気ない林の中の風景や薪割りの様子が後半でリフレインしたり、鹿についての説明が後で効いてきたりと伏線回収もひとつひとつ丁寧で技巧的である。私は好きだが、やりすぎだと感じる人もいそうだ。
ラストシーンは、唐突でやや解釈に苦しむ展開である。ゴダールのようなヌーヴェルヴァーグ的な落とし方にしたいということかもしれないが、ここは少し不満で、この映画はもっと地に足のついた堅実な終わり方でもよかったのではないか。
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