こなつ

人間の境界のこなつのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.0
政府が【隠したがった真実】とは?ポーランドの巨匠アグニエシュカ・ホランド監督による衝撃の話題作。

監督は、友人のカメラマングループと国境付近の写真を撮影していた2021年、政府が国境を閉鎖した事で情報が遮断されてしまった。資料とインタビューをもとに本作の制作を決意。

2021年9月ポーランド政府は、アフリカや中東からEU諸国への亡命を求める人々で溢れるベラルーシとの国境付近に非常事態宣言を発令。ベラルーシから移送される難民を受け入れ拒否した上、強制的に送り返し、ジャーナリスト・医師・人道支援団体らの立ち入りを禁止。入国を拒絶された難民たちは国境で立ち往生し、極寒の森を彷徨い、死の恐怖にさらされていた。

この作品は、難民家族、国境警備隊、支援活動家など複数の視点から映し出している。

「ベラルーシを経由してポーランド国境を渡れば、安全にヨーロッパに入ることができる」という情報を信じて祖国シリアを脱出した家族。幼い子供たちを連れていた。やっとのことで国境の森に辿り着いたものの、武装した国境警備隊から非人道的な扱いを受けた上、ポーランドに入ってもベラルーシに送り返され、そしてまたポーランドへ強制移送されるという日々。一家は暴力と迫害に満ちた過酷な状況のなか、地獄のような日々を強いられる。葛藤する若い国境警備隊員の姿や命を顧みずギリギリのところで支援する活動家たちの姿も描かれている。

これはドキュメンタリーではないので、どこまでが真実なのかはわからないが、本当にこのような事が行なわれていたとしたらあまりに辛い。

キャストには実際に難民だった過去や支援活動家の経験を持つ俳優たちを起用しているせいか、真に迫る空気が漂う。本作は2023年ヴェネチア映画祭のコンペティション部門で上映され反響を呼んだが、当時のポーランド政権は本作を激しく非難し、前代未聞の上映妨害があった。それにもかかわらず、殆どの独立系映画館が政府の命令を拒否、世界の多数の映画人がホランド監督の支持を表明したと言われている。

原題は、「Green Border」(緑の国境)。それは正規の通関手続きを経ての国境越えではなく、ベラルーシ国境警備隊が意図的に開けた抜け道を通っての非合法な越境。森林の中に人為的に引かれた直線の国境を意味する。

ポーランドにしてみれば、難民に紛れて懸念される他国の工作活動や攻撃などに対する不安はあるだろう。難民が溢れかえる国の苦しい立場も含めて、考えさせられた作品。誰もが生きる権利があるから、今もなお続く国境での厳しい状況に胸が痛まずにはいられない。

支援された家で、その家の子供達と心通わせ楽しげに歌を唄う難民の少年たちの明るい顔が印象的だった。
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