作家が自分の作りたい作品と大衆に受ける作品とのギャップに苦しむというのは普遍的なテーマなのだが、そこに人種的な問題を絡めてコメディに仕立てているところには割と新規性があって面白い。
映画全体のトーンとしては登場人物の一人が主人公を評して言うように「はははと笑えるタイプの面白さ」ではなくて「パセティック（感傷的）な面白さ」があるコメディ映画になっている。
この映画のアイロニーの要点は大きく２つあって、1つは、黒人の作者によって作られた作品が作品自体の内実に関わらず「黒人という人種」と紐づいて理解されてしまう所で、これはかなりよくわかる話で切実な問題なのだと思う。しかしもう1つの黒人の人種的な要素を強調した作品が白人を中心に過剰に評価されてしまうという点に関しては、あまりピンとこないというか話の面白さを優先して現実の問題を捕らえそこなっているようにも思える。
自己言及的な要素の多い作品ではあるのだが、やはりこの映画自体がマーケットで成功するために黒人によって製作された人種問題を扱う映画であるわけで、それ自体がこの映画が揶揄するようなステロタイプを強化するという側面もあると思う。おそらく監督はそのことに自覚的で、それが明確な答えが出ない半ば開き直ったようなラストに表れているような気がする。
1つ気になったのは、序盤のエージェントとの会話の場面で主人公が「I don't believe in race.」(俺は人種なんて信じちゃいない)というセリフが字幕だと「俺は人種にはこだわらない」というふうに訳されていたのだが、この映画のテーマを考えるとこの違いは結構大きいのではないかと思う。
