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名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)のchiのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

シンガポール以来?にオリジナルの建築物が出てこないおかげか、見知った景色がこれでもかと出てきて勝手に立体感を感じられた。西日本の人たちはこの感覚を毎年のミステリーツアー回で味わっているのかと思うと羨ましい。ラッキーピエロがハンバーガー単推しを貫いており、実際に訪問したらメニューが多すぎて往生した身としては聖地巡礼者が同じ罠に嵌まるだろうことに喜びを禁じ得ない。

決め台詞としか呼びようのない突然のかっこいい言い切りをあらゆるキャラクターが発する今回のテイストは滑り芸寄りのコメディといったところだろうか? 犯人の動機はバディへの思い入れで湿っぽく演出することもできただろうに、共犯者の息子を送り出すためという直接的理由に時間を割いて軽くしている。冒頭で派手に服部vsキッドの対立と原因を描写したのにその後はなんとなく協力し、キッドが和葉を手助けするなどのフォローもなく解決せずに終わる。キャラクター各々がほぼ初心を貫いており、途中で何かを知って態度を変えることが(当て馬の聖でさえ)ないまま終わった元鞘感はまるで一般アニメのオリジナルストーリー映画化のようで、近年特に原作者の意図が入ってくるコナン映画らしくなさを感じ、敢えて表現するならコメディのようだと思ったのかもしれない。
決め台詞は話を暗記した頃にはサービスとして楽しめるようになっていると思うが、初回鑑賞では残念ながらノイズだった。

近年との違いには群像劇っぽさが減ったことも挙げられるかもしれない。赤井なら組織、コナンなら探偵団など独自の人間関係を背負う代表者同士で連絡を取り合いつつ最後にやっと収束するスタイル(昨年はわざわざ灰原だけの知り合いを新規に登場させてまでそうした)を捨て、閉じたやりとりは「知ってる人間がいたから声を掛けた」程度のきっかけに留め、あとはメインキャラ全員で集ったり盗み聞いたりを欠かさずに情報の風通しが良い状態が最後まで維持された。キッドの周辺人物を台詞上で出せなかったり刀周りの話がややこしい分の引き算であったりといった事情があったのだろうが、それが鑑賞者の視点の固定といつもより濃いトリックを実現したのなら是非このやり方を続けて欲しい。

お宝の正体を引き立てるように現代技術がなんの説明もなくざくざくと利用されていく演出が巧かった。ペン型カメラ、電子黒板、誰も驚かない盗聴機、敵も味方もGPS発信機、終いには敵のスマホへairdrop。ファンタジー的な博士の道具はアクションのためのスケボーに留まり、実物の博士が登場してからもデザインが面白いだけで現実にある道具だけを操作する。科学の進歩をこれでもかと見せつけてから描かれる「百年前の最新技術への落胆」が鋭く刺さった。

・今回一番優秀だったのは予告映像の消化。きちんとやるし、冒頭でやるし、直後に別展開が来る。
・オープニングのいつもの「オレは~」がステンドグラスモチーフになっており、一見なんの映像かまったくわからなくなっている。ほとんどコラージュで、単体で見てあらすじが理解できるように作られていない。このふざけ具合もコメディ回疑惑を抱いた一因。
・暗号の解を一意にするためには光彦が水準器を使っているはずだと後から気付いたので、次の鑑賞で確認したい。
・廃車置き場? で襲われて援護射撃しようとしていたキッドが結局撃てずにその後グーパーしており、手指に故障が起きたのかと不安になっていたがその後特に何事もなく活動していた。なんだったのか……
・全部コメディだなと思うまでは紅葉がコメディ担当だと思っていた。大体の人が期待してしまっているであろう函館以外の道名所も巡ってくれるし、100万ドルを「そんなに高くない」とも言ってくれる安心感担当。
・映画園子のお嬢様っぷりがどんどん磨かれていく。仕事もがんがん手掛けている。映画でだけ上流階級解像度が高い。そして上述の閉じたやりとり回避の象徴として特筆したいことに、劇中で一言も蘭と会話をしない!
・工藤系の顔問題については何がしたかったのか。再来年以降の映画への布石?
・キッド衣装のキッドの登場濃度には大変満足しています。これ以上多くても少なくても中森親子と距離近そうに見えても違う。このくらいが最高
・キッドがいるときによく流れていたのでキッドのテーマだと思われる劇伴もごりごりのコメディ系
・今回のaikoの曲、和葉のイメージソングにしては暗くて自己評価が低すぎる。そういうヒロインとして読み取ることも不可能ではないだろうが違和感。あとで歌詞を検討したい
・元々そういう伝説があったのを差し引いても前半で想起させる構造が強烈なまでに金カム
・その分悪役と同じように「五陵郭にお宝がある」と芯から信じ込めたのは得だった

盗一については「それで死んでた場合より面白くなるんだろうな!?」という恐喝めいた思いがずっとあるので変わらず様子を見続けることしかできない。他人だった場合より面白くなるんだろうな!!??


(追記)日本語字幕版鑑賞
昨年は地元の字幕回が早朝に設定されており隣県まで足を伸ばした方がまだ遅く家を出られる異常事態に陥っていたが、今年は見やすい午後の時間帯になっており余裕を持って鑑賞することができた。今後もほどよい設定を続けてほしい。
字幕については服部の台詞に2ヶ所ほど声優の発声との違いを感じた他、漢字表記が「箱館戦争」「函館」で統一されており検討の跡を感じた。
序盤のコナンの大人が持っているものを見たがる動き等、台詞を喋ってないキャラクターの演技がたくさん付けられており、誰の視点でも楽しめるように作られている。

最初から盗一が関わってると了解した上で観ると、川添の武器商人界隈に詳しいという定評が気になる。本物の素振りから了解を得てなり替わっているようでもなく、コナンにとっての小五郎のように勝手に名声を高めても破綻しない常連的存在なのだろうか。
また、初見時に唐突さが大きかった船上の白人(カドクラ(カタカナ表記が意外だった)の亡命の手引きだけが用事だったらしい)も「初代キッドの敵」として登場させたのであれば全体がまとまる気がしてきた。黒羽盗一が主人公の物語では死の商人との世界を股にかけた戦い(邪推すれば千影の盗賊行為がきっかけかつ千影には『エンタメ』だと思い込ませたまま現在まで来ているのでは)が繰り広げられており、その世界の一端に名探偵コナンと殺人事件が小さく組み込まれた、が今回の映画の本性ではないかと予想する。

観光地舞台の映画でありながらものを食べている描写がほとんどない(キッド歩美元太がラッピバーガーを食べる他はキッドが特に銘菓でもなさそうな饅頭を食べているだけ)のが初見で気になっていた。キッドは函館滞在中この二つしか口にできていないのではと心配になっていたくらいだ。飲み物は悪役含め何人もが口にしている。慌ただしさを演出するものだったのだろうか。
キッドの心配と言えば、車両基地での犯人との戦闘ではキッドが構えるだけで発砲しないまま終わり、その後手を見ていたように思えて怪我か神経系の故障も疑った。後半ではなにごともなく狙えていたので実際何もなかったのだろうが、そうするとこの戦闘での役に立たなさが疑問として残る。
キスの件をキッドは大して気にしておらずともこの戦闘で助けられたことは負い目と捉えさせることで、終盤のマリオカート釣りが双方の心理的負債の解消になるようにしたのかもしれない。

川添の正体を知っていれば福城家のシーンでは黒羽親子が揃っていることになるため、福城親子の以下のやりとりに示唆が混じっているように感じた。
・風水の話をする父親をちょっと嫌そうにする息子
・「自慢の息子なんだね」とコナンが発言する背景に撮り込む茶の間の二人
・父親が自宅に残した暗号で息子が犯罪行為を開始する
初見時は沖田が聖の役割を果たすはずだったのではないかと予想していたが、この対比を狙っていたのであれば二人ともオリジナルキャラである必要性が理解できる。
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