タキ

ア・フュー・グッドメンのタキのネタバレレビュー・内容・結末

ア・フュー・グッドメン(1992年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

何が正しくて何が正しくないのかクルクルと入れ替わり何度も脳がバグる。殺人を犯した(殺すシーンが冒頭にあるので冤罪の類ではない)海兵隊員を弁護するとはどういうことなのか。平和な世の中ではちょっと意味がわからない。それがアメリカ海軍の中の出来事なら十分ありうる話なのだ。同僚は殺したが、それは上官から命令されたコードレッドという懲罰行為であり自分達は無罪だと訴える。海軍法務部弁護団も一枚岩ではない。検察と裏取引して6か月の禁錮でどうかと考える者、殺人罪で相応の刑罰を受けさせたいと思う者、無罪を勝ちとり自らの有能さを示したい者、三者三様の考えがある。日本人だと殺人を犯した海兵隊員に嫌悪感を抱くサムに近い気持ちで見る人が多いような気がするが、そうなるともはや弁護士というより検察官寄りになる。しかしそうさせないのがケビン・ベーコンのスゴイとこで絶妙に憎たらしい検察官を見事に演じている。証拠は極めて少なく、コードレッドの命令を聞き、被害者の転属届を偽造した最後の切り札、マーキンソン中佐も自殺する。それでも海軍大佐ジェセップを召喚すべきと食い下がるポジティブの権化ジョーと、わかりやすく酔っ払って暴言吐きまくるキャフィ、ソッと寄り添うサム。ほんとサム…いいひとすぎて泣ける。その存在だけでキラキラを振り撒くトムクルーズとデミムーアに挟まれて気の毒ポジとか思って悪かった。彼がいないとこの弁護団はぜったいうまくいかない。
パワハラとマッチョとジャックニコルソンの顔面というフルコンボ、ラスボスジェセップ大佐を追い込むシーンを固唾を飲んで見守る。大佐の詭弁はアメリカ合衆国そのものだ。正義の定義が簡単に揺らぐ。仕方ないのかもと思ってしまう自分にハッとして恐ろしくなる。
無罪判決とともに不名誉除隊に処せられるラストはアメリカの良心という感じがした。命令を下した大佐は逮捕され、殺人を犯した海兵隊員は社会的にも経済的にもかなりのダメージを受ける厳しい処分のようだ。

不名誉除隊とは
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E5%90%8D%E8%AA%89%E9%99%A4%E9%9A%8A

かつてコードレッドの懲罰を受けて食事を与えられなかった同僚に食べ物を渡したことのあるドーソン上等兵はこの判決をすんなり受け入れたが、殺人に関しては無罪になったのに海兵隊の軍規倫理違反に関しては有罪、不名誉除隊になる意味がわからないダウニー一等兵の対比をラストに持ってきて、この問題の難しさを印象づけた。目が眩むばかりの美貌をほこるトム・クルーズやデミ・ムーア、怪演俳優ジャック・ニコルソンをキャスティングして映画らしい映えを意識しつつ、実はかなり上手い脚本。セリフの応酬が舞台劇の名残りがあってスリリングですごくカッコイイ。
アカデミー賞作品賞にノミネートされたもののその年はクリントイーストウッドの「許されざる者」が受賞。あちらはハリウッドが作り続けた白人至上の勧善懲悪西部劇のアンチテーゼ。アカデミー賞としてはここは外せない。相手が悪い
タキ

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