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ジュディ・ブルームよ永遠にのLCのレビュー・感想・評価

4.1
面白かった。

本作で取り上げられている人は、元々は児童書界の人として認識されていたのだけれど、当時の若人たちに表層的な夢や理想や成功ではなく、誰とも正直に話せない、共有することが難しかったことを見せてくれたんだよね。
夢物語はとても心が躍るのだけれど、その世界とは乖離してしまっている部分を、その不安や恐怖を、若人たちは「自分がおかしいのかも」って悩んだりする。そんな時期って確かにある。ジュディという人は、そんな彼らにとって素直に胸の内を曝け出せる人だった。
何故なら、自分と繋がっている、と感じることができたから。不安で、恥ずかしくて、怖がっている、理想的な存在ではない自分と。
そして、寄り添うふりをして彼らを自分の思い通りに動かそうとする人でもなかった。

彼女が素直に書いた当時と今では違うことがいくつもある。流れる時の中で「子どもに読ませたくない」と責められ、殺害予告もされたりする。
それでも、1人の人間の感じてきたこと、体験してきたことを素直に話してくれる存在は貴重だ。全くの無から生まれる物語なんて存在しない。彼女は本を通して、読んでいる若人にまっすぐ向き合っていた。大人の体になっていく過程で戸惑ったりする、そんな子たちに。
そして彼女は、子どもたちの為だけではなく、大人の為の物語も書いている。
役割を遂行する中で、気持ちを押さえつけながら笑顔で日々を過ごすようなことって、やはり誰にも打ち明けられないんだろう。そういったことを、ひとつひとつ丁寧に覚えていて、考え続けているからこそ、彼女は書き続けることができたのかもしれない。

私の生きている世界と地続きだ、そう感じられる作品への愛着は深いものがある。
揺れ動く気持ちを、少しだけ落ち着けてくれる。キャラクターたちが、自分と同じようなことで揺れていて、それを言葉にしてくれる。
私自身も、やはり長いこと自分のことをおかしいんだと感じていた。周りからそう思われていることを感じ取っていたのもある(発話しないとか色々原因があった)けれど、「誰かの為にご飯を作ることの幸せがわからない」という、普遍的なものもあった。
今なら、それっておかしくない、とわかるんだけれど、それは成長したからだし、同じように打ち明けてくれる誰かの声を目にできる環境のおかげでもある。自炊が1番安い、とか、体や心に関することとは別な世界にも例はいくつもあるんじゃないかな。自炊では1度に大量に作ってそれを保管しておくと安い、というロジックを後から知ったりする。
重大ではないけれど、私も体のほんの一部が奇形で、美しさというもののプレッシャーに怯えた経験もある。

また、ジュディという人は、内面を素直に書くところもそうだけれど、人生で避けては通れないことも書いてくれている。その象徴が「性」の話なんだけれど、このテーマだけを切り離して何かを語ることは、彼女にとってとても不自然なことだったのかもしれない。
友だちはもう経験したんだって、自分は経験してないなんて恥ずかしい。例えばそういう気持ちになることって、他にも色々あると思うのだけれど、性もそのひとつでしかないんだよね。
そして実生活の中で、不安に思ったり苦痛を感じたりするのに、それが間違っているかもしれないと、これは喜びなのだと自分に言い聞かせたりしちゃう。
彼女は、不安も苦痛も、あなたが変だからじゃないと、物語の中で描いているし、もし幸運にも喜べる相手と行うのであれば、伴う責任があるとを知っておくことも大切だという姿勢でいる。

作中の子どもの言葉がとても好きだ。
何を読むべきか、何を読んではいけないか、他者に押し付けられるのは、誰だって嫌だよね。映画もそうだと思うし。
この視点の物語を見たら、同じテーマだけど違う視点の物語も見てみる。そういうことができたらいいんだと思うけれど、兎に角結論を急がす、時間をかけて、揺れて揺れて、少しずつわかっていけば良いことってたくさんある。
焦らないで大丈夫。そう伝えられる人も、環境も、当たり前に存在していないことが何より苦しいことかもしれない。
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