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ちゃわんやのはなし ―四百年の旅人―のtoのレビュー・感想・評価

5.0
東京、初日。ポレポレ東中野は、満席です。
去年の鹿児島の先行上映で見たかったくらい。やっと東京で見られて、よかったです。

司馬遼太郎「故郷忘じがたく候」はあらゆるジャンルを超えた名著。
その中で登場する鹿児島の美山は、山の稜線などの風景が、どこか、朝鮮を思わせる、というような表現をされていたと思う。映画でもそうした描写があるかな、と期待したが、シバリョーと一世を風靡した14代沈壽官の紹介はそこそこで、今作の主人公である今の15代沈壽官をじゅうぶんにフォーカスされていた。

先代の華やかさについて、オーラがあったと語る15代は、とても腰が低い。けれど、ひけらかさず、かざらず、やさしいお人柄であることは映画を見ると誰もが思う。先代との衝突も、韓国での葛藤も、非難めいたことなく、訥々と語る。お話がとても上手で、頭の良い方で、そして技術も努力も並外れていることが分かる。ああ、こんな、よか人が、鹿児島にいらっしゃったんだと。15代続く沈壽官窯を、後世につないでいらっしゃるんだと。誇らしくなる。と同時に、語り尽くされた先代の栄光にとどまることなく、今とこれからの「ちゃわんのはなし」をやさしく、分かりやすく、2時間飽きさせることなく綴る監督の上手さとやさしさを感じた。

あ、これ、李鳳宇さんのプロデュースだったんだとエンドロールで思い出す。シネカノンで私たちにたくさんの良いもの、新しい世界を見せてくれた李鳳宇さんが、今また、こうして大切な歴史と文化を作品にして、見せてくれる。ありがとうございます、と思う。

アフタートークでは、もっと監督の話を聞きたかった。他の登壇者の関係ない自分語りに、ちょっと余韻がだいなしになった。次回以降はそんなことないと思うけど。

沈壽官窯にはこの春いきました。登り窯もあり、売店もあり、おいしい喫茶室もあります。おしゃれなビビンバと豆花が超美味しかった。美術館もあり、先代たちのすごい作品が展示されています。特にパリ万博の出品作や帝政ロシアのニコライ2世への贈り物などを作った12代の作品はやばい。素人目にもすごすぎて、変態…と思ったほど、超絶うまいです。薩摩焼なのに、ひねりものの人形が「生ぎっとっごだあっ」です。
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