ラウぺ

No.10のラウぺのレビュー・感想・評価

No.10(2021年製作の映画)
4.1
なんというか、予想の斜め上というか、文字通り別次元にワープしてしまう驚くべき映画。

冒頭、とある人物が朝食を摂って出掛ける様子を描いていますが、この人物は物語の上で実は主役ではなく、主人公にひとつの転機を生じさせる役割であり、途中の役者仲間での不倫を巡るあれやこれやも物語の本筋とは(たぶん)基本的になんの関わりもない。
ちょっとあるとすれば、主人公はこの世界にどことなく疎外感を抱いていて、子どもの頃の記憶がないというその出自を巡る謎や、娘の身体の異常といったものが一種の部外者感を漂わすのみ。

物語全体に漂うのは乾いた描写と必要最小限の会話による淡々としながらも比較的テンポよく進む物語の展開に、やや斜に構えたニヒリズムが独特のムードを保つことで、前半の展開もなかなか興味深く観ることができます。
役者間でのイザコザの後に主人公は自分が監視されていることに気づく・・・
その後は観てのお楽しみ。

物語が超展開を迎えて驚くべきスピードで物語が進む感じは、まあ言ってみれば『2001年宇宙の旅』でボーマン船長がハイパースペースに突入するときの雰囲気に似ているような、いないような(目の前に映し出される映像がこれまで観ていたものの延長上にあるとはとても思えない、という心象風景に近いという意味で似通っている、という感じ)、それでいて、物語の進行は必要な情報は全て提供されていて、不明確といえるような部分はまったくなく、それでいて物語が驚くべきスピードで展開しているのに総集編的な作劇上の早回し感が感じられないところが秀逸といえます。

怒涛の急展開で物語が終わっても、これ以上何か描く必要があるとは思えない、というなんとも不思議な充実感と余韻がまた心地良い感じ。
もちろん物語が終わった先に起きる事態は観る者が脳内で完結させることになるわけですが、既に必要な情報はちゃんと提供されているので、その先は容易に想像することが出来る。
この点で、キツネに摘ままれたような不思議な感覚が残るとはいえ、この極限まで削り込まれた物語の中でこれほど分かりやすい映画もまた稀ではないか、という気がするのでした。

物語が後半どう進むのか、またサスペンス要素以外にこの映画がどういうジャンルに分類されるのかといったことまで、一切情報皆無で観ることをお勧めします。
また、パンフレットはソドムとゴモラの消滅のごとく、決して見てはいけない場面写が掲載されているので、鑑賞前にパラパラとでもページを開くのは厳禁です。
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