鉄

成功したオタクの鉄のレビュー・感想・評価

成功したオタク(2021年製作の映画)
4.2
ドキュメンタリーは最も私的なフィクション作品なので、正しくこの作品はドキュメンタリーだった

本当に好きなものを好きでいる時、私はどこまでも行ける、何でもできる、と思えるあの感覚や感情全てがわかるので、その気持ちを強制的に中断させざるをえなかった出来事を経た彼女たちの話をただぽろぽろと涙を流しながら聞く他なかった

酷いことをしたアイドルに対して向き合う映画では全くなくて、魂と時間をオタクに費やした21歳の監督と、その友達が負った心の傷を、どこまでも自己中に、どこまでも自分本位に、オタクという傲慢さをそのまま持ちながら、対話を行うことで根気強く癒していく試みを映している、それだけ

監督と友達が、かつて一生懸命集めたグッズを処分するために取り出しているシーンめちゃくちゃに泣いてしまった
もう好きなんかじゃないアイドルのグッズだし、処分するに限る!っていうノリなのに、
思わず「これ3万ウォンもしたんだよ?」て言っちゃったり、「サイン入りのものは大事だから」って言っちゃう気持ちは同時に存在してていいよね。
それを手に取ったら、やっと手に入れた時の思い出が蘇るし、確かに好きだった瞬間を思い出してしまうし、直筆のサインが入ったものは、どんなに嫌悪していても名残惜しくなったりするし


それは推しが最悪の人間で大嫌いであるのも本当だけど、かつて本当に憧れて、何もかもが輝いてて、楽しい夢を見せてくれて、何より好きだったことも本当だから、思い出まで全て否定することはしなくていいのではとも思ってしまうよ

被害者に対する申し訳なさとか憤りとかより、徹底して自己の推しに対するショックと向き合ってたのが本当に良かった。オタクの自分本位の傲慢さがよう出てた、こういうのでいいのよ、どこまでも個人的な作品なんだし

最後の推しに対する身勝手な願いは、オタクを降りてすら、どこまでも傲慢なオタク精神をそのままにして発されていたのでめちゃくちゃ感動した

性的暴行などの酷い行いに対して、フェミニズム的視点を持ち、理性的に嫌悪感を抱き、推しを推していたことを後悔し、嫌悪する姿勢を持ちながらも、好きだったかつての推しに対して今後の人生の姿を願ってしまう、そうさどこまでもオタクは身勝手なものだよ、どこまでも他人でどうしても交わることはないから身勝手に願いを喚いてしまうものだよ
鉄