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グレイテスト・ヒッツのarchのレビュー・感想・評価

グレイテスト・ヒッツ(2024年製作の映画)
4.2
黙々とレコードに針を落として、回転とともにルーシー・ボイントンが回転する。すると場面は車内に。そこには
先程まで幸せなそうな回想の中に居た彼がいる。この冒頭の一連のシーンで主人公ハリエットの忘がたい思い出と本作の設定、彼女が今「過去」に囚われていることを、端的に示しており、その手際と合理性だけじゃないエモーショナルな映像感に心奪われた。

音楽を聴くと、過去の思い出が蘇ることがある。心理学なんかだとメンタル・タイムトラブルなんて言うらしいが、音や映像が思い出を五感に蘇ってくる。その感覚が万人共通の感覚だからこそ、感情と結びつく舞台装置的なSF設定として、「音楽を聴くと過去に戻る」という設定が成立しており、そこも上手い。




ルーシーとジャスティンのスター性に場面の甘酸っぱさみたいなものを担保しており、演出が際立っている訳ではない。またあのアンティーク店にタイムトラベルしたい理由も、最後まで見ても「車の中に戻る」以上の重要性を感じなかったのも問題な気がする。
だが、それらを払拭するだけの音楽パワーとアナログ趣向へのフェティッシュが、自分には刺さった。針を落とす動き、車内でラジオのボタンを押す仕草、ディグってる手つき、その一つ一つが丁寧に撮られていて大事にしているのが分かる。過去に後ろ髪引かれる感覚が強まれば強まるほど、ルーシーの心境を強く理解出来るようになっていく。

本作で何より素晴らしいのは、ルーシーへの信頼だ。画面の中央に配することで、画としても感情の表現としで完全に成立する、そんな信頼だ。特に素晴らしいのは、恋人とのフェスで出会う場面。劇中で2回、その微妙な心境の違いやその場面の重要性を被写界深度浅めの映像で、顔のみの情報量で、表現する。
本当に素晴らしいシーンだった。


こういう映画でまだ動く心があるんだなぁと驚きながらも、なんだか懐かしい気分になった映画でした。
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