ろ

間違えられた男のろのレビュー・感想・評価

間違えられた男(1956年製作の映画)
5.0

「1953年1月14日早朝、この日をクリストファー・バレストレロは決して忘れることはない」

仕事が終わると地下鉄に乗り、競馬予想を読みながら朝食を食べ帰路につく。クラブのベース奏者マニーは、妻と二人の息子とともにつつましい暮らしを送っていた。
そんなある日、帰宅途中で警察官に連行される。
妻への電話もままならず、あれよあれよと留置場に入れられてしまい・・・

「私が強盗なんて!一体何を盗んだというんだ!」
妻の保険証書で医療費を借りるつもりが、強盗犯の容疑をかけられてしまったマニー。
犯人と筆跡が同じだと決めつけられ、目撃者の面通しでも「この人が犯人」と証言され、ついに拘置所へ送られる。
冷たい手錠がマニーに迫る。
移送される容疑者たちの汚れた革靴が車内にひしめく。
鉄格子の窓は、十字架のように重くマニーの額に影をおとす。

「あの男、あなたに銃を突きつけた男じゃない?」
恐怖とともに伝染するバイアス。
「間違いないわ、絶対にそうよ」
疑惑から確信へと変わるスピード。
一度バイアスがかかると、事実を公平に見定めることはできなくなる。事実より感情が先行し、不安や恐怖によって生み出された記憶があたかも事実のように思えてしまう。
バイアスを通して、訳も分からず品定めされる主人公の心細さがヒリヒリと突き刺さる。

「いくら無実でも彼らはあなたを犯人だと決めつけるじゃない。すべて彼らの手中にあって、逃げられないのよ」
櫛を振りかざす妻、化粧台の鏡は真っ二つにひび割れる。

検察官は耳打ちで笑い話、親族は口紅を塗りなおし、陪審員はあくび、補佐官は落書きをしている。
誰もが無関心な裁判で、今日も男の人生が裁かれる。


( ..)φ

「彼女はいま違う世界にいます。月の裏側のような暗い景色のところに。そこにはあなたもこどもたちもいます。恐ろしい影のような姿で」

疑った方はすぐに忘れても、疑われた方は一生分の傷を負う。
私には関係のない裁判で、誰かの命の行方が決まる。
関心も無関心も、どちらも同じくらい残酷で無責任だ。

マニーに向ける人々の視線が痛かった。
下を向くマニーの目線に途方に暮れた。
人間の残酷さをあぶりだす映像があまりにリアルでサスペンスフルだった。
ろ