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ミニー&モスコウィッツのOtoのレビュー・感想・評価

ミニー&モスコウィッツ(1971年製作の映画)
3.9
坂元さん濱口さん今泉さん三宅さん…が敬愛するカサヴェテス。特に今作は塩田さんの『映画術』で読んでからずっと気になっていたけど、DVDも配信もなくてみる術がない中で、上映してくれたStrangerありがたい。

情動的でどうしようもない人たちの映画で、自分はこんなふうにワガママに後先考えずに行動することはできないな〜と思いながらも、どこか自分でも共感できるところがある不思議な作品。喧嘩した5分後には仲良く抱き合って歌ってるのって、俯瞰でみたらすごく滑稽で、映画になるんだなぁ。

宮本香那さんの個展で「ごっこ遊びにはカタルシス効果がある。絵画の中ではわるい事をしても誰にも咎められない。それは抑圧からの解放、嫌いな部分の肯定、という一種の救いだ」と書いてたけど、それに近い感情。
DVにストーキングに暴言…危うい描写も多くて、いまの映画だったらどうかなと思うところもあるけど、人間のそういう愚かさとか気まぐれさに自覚的に描いていると感じられたので、自分はコメディとして楽しめたし、劇場もかなり笑いが多かった。でもああいう野蛮さが受け入れられない人もいるのもわかる。

冗長なところがこの映画の良さだなと思っていて、お互いの親に結婚報告の電話したりとか、お見合いランチでクズ男の長話聞かされたりとか、ハリウッド映画なら削られるような些末な部分が贅沢に描かれていて、そこに人間の悲哀とか孤独のようなリアルが詰まっている。機内食のニンジンが食べられない少女、モスコウィッツが一夜だけともにした女性…全然本編と関係ない人が丁寧に描かれてる。

他人の恋愛って見てられないな〜ってカフェで喧嘩してるカップルに遭遇しても思う(犬系彼女も話題だ)けど、ヒゲ剃るから別れないで!みたいな意味不明なことが世界中で起きてるんだなぁって思うと、ちょっと救われる感じがある。
さすがに暴力のシーンは見てて辛いけど、彼女の機嫌をとるために車から流した音楽で踊った後、自分が紹介してもらえなくて拗ねてるのとかすごく身に覚えあってよかったし、舞い上がって逆立ちしたくなるような気持ちもわかる。改めて顔をみて「この人じゃない」ってなるような人とみんな付き合ってるし、冷静じゃいられなくなるような関係性があるから面白い。

モスコウィッツのような昭和の男的な自分勝手さ・横暴さって人間らしくて可愛いよねという単純な二元論になると、自分のような謙虚であろうとする人間は生きづらくなっていくけど、クズさと優しさを兼ね備えたスターって徐々に増えていると思うし(個人的には金属バットの芸風が彼の延長線に感じた)、他人と同じくらいに自分のことを大切にしていきたいと思った。

memo
・サングラスいい演出。心の距離の表現もだけど、一緒にいると思われたくないみたいな場面ってある。そんな大きい声で話す必要ある?って人っているけど、そういうものから自分の身を守るためのものか。

・繰り返し出てくるUターンも良いモチーフ。常に行き先が予想できない主人公の行動として視覚的にすごくわかりやすい。

・意味のわからない詩にはお金を払おうとするのに、人のパーティーでは厄介なナンパを繰り返すモスコウィッツ。人間は波で、理屈じゃないなと思う。

・肩に寄りかかるカフェでのクローズアップが好き。温かいはずなのに分断されている二人。

・夫婦と仲間で週末に映画作りをするような制作体制だったと聞くけど、メイキング観てみたいな〜。

・領域に土足で踏み入るようなことがないと、偶然出会った人と仲良くなることってないよなってことも感じた。
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