櫻イミト

にごりえの櫻イミトのレビュー・感想・評価

にごりえ(1953年製作の映画)
4.0
昭和28年度キネマ旬報ベスト・テン第1位。樋口一葉の短編小説『十三夜』『大つごもり』『にごりえ』(1895)の3編を原作とするオムニバス映画。明治時代の立場の弱い女性の三様が描かれる。今井正監督と脚本の水木洋子は同年に「ひめゆりの塔」も手掛けている。

「十三夜」(30分)
夫の仕打ちに耐えかね実家に戻ってきたおせき(丹阿弥谷津子)は、父から辛抱するように諭され。。。

「大つごもり(※大晦日の意)」(30分)
女中おみね(久我美子)は育ててくれた養父母に頼まれ女主人に借金を申し込むが。。。

「にごりえ(※濁った入江の意)」(60分)
小料理屋菊之井の人気酌婦お力(淡島千景)は太客の結城に初めて悩みを打ち明ける。。。

脚本・演出・撮影・演技の全てが完璧に近い傑作。明治時代、封建的な風潮が残る社会で生きる女性たちの哀しみを繊細に抒情的に描き出している。

脚本が抜群に上手かった。日本語の使い方が鮮やかで脚本の教科書のよう。言葉に頼りすぎずふとした表情や所作で心を表している。それを演ずる俳優陣も脇役に至るまで全員に隙がなく、タイトな画角に耐えうる繊細な芝居に惹きつけられた(劇団「文学座」の俳優が総出演とのこと)。

三話それぞれ面白く、現在人気があるのはサスペンス性と救いがある「大つごもり」のよう。個人的には締めを飾る「にごりえ」が傑出して凄かった。口が達者で本音が見えない複雑な女性像を淡島千景が見事な芝居で体現している。物語の結末は不明瞭のまま終わるのだが、それでも納得できる文学的な魅力があった。

同年のキネマ旬報ベスト・テンでは第2位「東京物語」(1953)を抑えて第1位。その評価も頷ける極めて完成度の高い一本。

※”不明瞭な結末”の良し悪しについて。近年作で例えると「由宇子の天秤」は良しで「怪物」(2023)は悪しと個人的には思う。制作者が観客に見せようとするものが、テーマなのか、物語なのかの違いかもしれない。

※丹阿弥谷津子は1958年に金子信夫と結婚
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