ThePassenger

めしのThePassengerのレビュー・感想・評価

めし(1951年製作の映画)
4.0
いままで小津安二郎の映画をただの一本も鑑賞していない私は、彼のミューズたる原節子についても殆ど予備知識を持たなかった

夫との関係に倦み、淡々とした味気ない結婚生活に身も心も疲れ果てた女が本作における原節子の役どころである。所帯染みた雰囲気と乱れ髪、おまけに恰好は割烹着姿とくれば普通なら冴えないことこのうえないはずなのに、なぜか彼女はキラキラとしている。これが本当のスター、そう思わせるに十分な輝きを放つ

繊細な心情描写に長けた成瀬巳喜男の的確なディレクションもあるのだろうが、ちょとした苛立ちや嫉妬の際に覗かせる表情がとても自然で、演技の才能を感じる。彼女の経歴を確認すると特に俳優としての勉強はしていないらしいので、きっと天賦のものなのだろう

主人公の同級生や知り合いのシングルマザーに関する挿話の入れ方が押しつけがましくなくていい。先日鑑賞した「波紋」のレビューで最近の映画はやたらにストーリーを盛り込みすぎると記したが、物語の構成としては七十年以上前に製作されたこちらに軍配が上がるのではないか

妻の顔を見れば「腹が減った」と口にする無神経な夫と暮らす毎日に嫌気のさしたヒロインが、そんな平凡な日常こそが細やかな幸せなんだと気付くラストに何だかこちらもほのぼのとした気分にさせられた

(2024-7)
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