亘

恐怖分子の亘のレビュー・感想・評価

恐怖分子(1986年製作の映画)
4.0
【すれ違い続ける人々】
台北に暮らす医師リーチュンは突然妻イーフェンから別居を申し出される。一方若い写真家シャオチュンは負傷した元彼女を救い復縁を狙うが振り切られる。それぞれの人生がすれ違い数奇な運命によって1つの悲劇へと向かう。

「クーリンチェ少年殺人事件」のエドワード・ヤン監督による群像劇。最後に悲劇が起こるという結末は「クーリンチェ」に似ているけども、本作の主題は人々のすれ違いや生きづらさ。台北の町の全く異なる場所で人々は生きづらさからすれ違い、運命が奇妙に交わる。序盤は穏やかだけど、終盤のすれ違いが絡み合い始める場面からの数奇さが素晴らしい作品。

まさに偶然から起こるすれちがいが積み重なった末に起こった悲劇。ものすごく数奇ではあるけど最後まで見ると納得できてしまう作品だった。

[リーチュンとイーフェン:夫婦]
医師のリーチュンは実直な男。昇進を目前にしていた。一方小説家の妻イーフェンは、悶々としていた。ずっと家に籠っていて夫婦の話しか思い浮かばない。そしてついに夫に別居を申し出る。しかしリーチュンは妻の想いを理解しきれず、昇進すれば妻の心が戻ると信じてますます仕事に精進し始める。そのころイーフェンは同級生との浮気を始めるのだった。リーチュンの願いはイーフェンに届かないのだ。

[シャオチュンと少女:元カップル]
写真家シャオチュンは、元彼女が不良少年と共に逃走する過程で負傷するところを見つける。元彼女は不良少女で日頃から深夜帰りや売春を行っていた。しかしシャオチュンは復縁を期待して介抱する。それでも少女は逃げ出してしまうのだ。

[2組の交わり]
この2組の運命は突然重なる。少女がリーチュンの家に間違い電話をかけイーフェンがとる。少女を夫の浮気相手と間違えたイーフェンは、後日電話の出所のシャオチュンのスタジオに向かうと今度はシャオチュンが出るのだ。こうして初めての接点が生まれる。

[さらなるすれ違い]
さらに時間がたちイーフェンが小説の賞を取ると、シャオチュンは自分とイーフェンの遭遇がストーリーに描かれていると感じる。イーフェンを糾弾しようとしたシャオチュンが電話をかけると今度はリーチュンが電話に出る。そこで少女の電話がイーフェンの家出の理由だとシャオチュンから説明される。こうして誤解とすれ違いがリーチュンを襲うのだ。

[絶望]
昇進すればイーフェンを戻せると信じていたリーチュンだが、他の同僚が昇進したことで絶望する。そして少女の件から狂い始めたリーチュンはこの件で遂に行動に出るのだ。その後に連続殺人するシーンは、リーチュンの願望も含めた妄想だろう。とはいえ妻の小説のように、どこまでが現実なのか分からなくなる。とはいえリーチュンの自殺の後にイーフェンの感じる胸騒ぎは、まるで今になって夫婦のきずなを思い出したかのようだった。2人は結局溝を埋めきれなかったのだ。

印象に残ったシーン:少女の写真が壁一面に貼られているシーン。リーチュンが自殺するシーン。
亘