回想シーンでご飯3杯いける

パリ、夜は眠らない。の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

パリ、夜は眠らない。(1990年製作の映画)
4.2
1980年代のニューヨーク・ハーレムで独自の進化を遂げたクラブとゲイカルチャーのドキュメント。夜の世界が持つ強烈なエネルギーと、それが社会的な必然から生まれた事を理解できた。

登場人物の大半が黒人のゲイ。つまり社会的には二重のマイノリティである。当時はエイズの恐怖が世界中でパニックを起こしていた時期であり、ゲイは今以上に偏見の目に晒され迫害を受けていた。そんな彼らはハウスと呼ばれるコミュニティを形成し、ナイトクラブ等でダンスや女装を競い合うようになる。そこから生まれたのが、かの有名なダンス「ヴォーギング」だった。

マドンナがヒット曲「ヴォーグ」のMVで取り入れた事で注目を浴び、今では、例えば日本のパフューム辺りも振り付けに取り入れているヴォーギングは、元を辿れば黒人のゲイが発展させたものだった。本作に収録されたインタビューによると、手の平をクネクネ動かす特徴的な動きは、彼らが日常的に使っていたコンパクトと化粧用のブラシを使う動きをアレンジして生まれたのだそうだ。日常的に差別されていた彼らが、いつもとは違う理想の人間に生まれ変わるための道具が化粧であり、その化粧が「ヴォーギング」を生んだ。人間の希望と権利が独自の文化を形成したという、歴史的な瞬間を捉えた貴重なドキュメンタリーだと思う。

僕がDJとして影響を受けた人が3人いて、実はその内の2人がゲイである。特に意識したわけでは無いのだけれど、彼らは共通して、偏見を打ち破るパワーと、それを体現する音楽観を持っていた。本作に登場する人達にも同じ力を感じた。