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砲艦サンパブロのtakのレビュー・感想・評価

砲艦サンパブロ(1966年製作の映画)
3.7
1920年代の中国は戦乱の時代。国民党と共産党が、軍閥を打倒する戦いが各地で起こっていた。不平等条約による欧米列強の支配はまだ色濃く残り、各地に軍隊が駐留していた。主人公である機関兵ホールマンが赴くガンボート(砲艦)サンパブロ号もその一つ。

艦内にはいつしか中国人が住み着き、厨房から機関室までアメリカ兵の末端の仕事はほぼ中国人が理屈も分からずやっている状況だった。エンジンを動かすことこそ任務とのプライドがあるホールマンは、艦内の風潮や状況に異議を唱え、怠惰な任務にあたる他の兵たちとはなじめずにいた。さらに彼が関係する中国人の相次ぐ事故やトラブルでの死亡。艦長からも転属を勧められる。一方、陸に上がれば欧米列強を排斥しようとする人々との対立は続く。そんな中、兵士の一人が酒場の中国人女性を救おうと行動を起こす。

ロバート・ワイズ監督はミュージカル映画もあれば高度なSF映画もあり、潜水艦ものの名作戦争映画もあれば、反戦映画もある。「砲艦サンパブロ」も「サウンド・オブ・ミュージック」と同時期の作品なので、振り幅の大きさを感じてしまう。だけど異なる考えや文化が接することで起こる出来事、悲喜劇を描いた作品が多いのは、どこか筋が通っているようにも思える。

この映画での中国人との関係は、非常に複雑だ。船内で働く人々、陸で横断幕を掲げる人々、アメリカ兵を慕う人々、憎しみの視線を送る人々。何かよい方向に向かいそうな関係が築かれそうで、それが政局と言う抗い難い時代の空気に押しつぶされていく。マコ岩松演ずる機関室の青年との信頼関係、布教活動をするアメリカ人を慕う若者たち、アメリカ兵と愛を確かめ合う女性。それらは次々と混乱と戦闘の中で失われていく。インターミッション付きの長尺人間ドラマは辛い結末を迎えるが、ここに込められた反戦への思いは十分に伝わってくる。スティーブ・マックイーン主演作といえばアクションを期待されるところだが、ここではシリアスな役柄に徹している。

リチャード・アッテンボロー演ずる兵士が救う中国人女性役はマラヤット・アンドリアンヌという女優さん。後に彼女はエマニュエル・アルサンの名前で、小説「エマニュエル」(「エマニエル夫人」原作)を書く。
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