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エル・スールの傘籤のレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
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静謐。しかしエストレーリャのまなざしは雄弁に彼女の気持ちを物語っている。記憶の中にある風景を追いながら、父親の姿を思い起こし、少しずついまに近づいていく物語。この映画は、ゆっくりと流れる時間を感じさせ、風景によって状況を語り、光や影によって感情を描いていく。
父のバイクに乗せられて走った道、窓越しから見た手紙を書く父の姿、流れる曲を聴きながらレストランでした食事と、テーブルの上に置かれた薔薇の花。父の姿は、光として、影として、エストレーリャの記憶に焼き付いているのだろう。
『エル・スール』。これはそんな「記憶」と、「まなざし」についての映画。
ひとつひとつのシーンが映画でしか成し得ない美しさを放ち、静かに、しかし雄弁に物語を物語り、映画としての画を映し出す。
素晴らしい。ため息が出るほど美しい映画だ。
背景にあるスペイン内戦については必要最小限の説明にとどめており、話の主軸はあくまでエストレーリャにとっての父アウグスティンについて。少女にとって「この期間」の記憶は父親と密接に結びついており、映画というメディアが約2時間の中で一面的な切り取り方しか物語を語れないのと同様、彼女のこの期間の記憶もまた、父親とともにあるのだ。エストレーリャが父親を見つめるとき、彼女の瞳はカメラとなり、淡く美しい場面が形成される。そんな少女の瞳に映された記憶の映画。
まなざしが風景を語り、記憶が物語となるとき、人の心に映画が生まれる。
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