デニロ

わが命の唄 艶歌のデニロのレビュー・感想・評価

わが命の唄 艶歌(1968年製作の映画)
3.5
高校生の頃、本作の原作者五木寛之の小説が売れていた。高校生も流行小説を読む時代だったんだろうか。学校の図書室で借りて読んでいた同級生も少なからずいた。あいつら、エロスを渉猟していたのに違いない。いや、わたしは彼の小説を読んでソ連、東ヨーロッパにおけるユダヤ人問題を学んだのですけれど。相手がユダヤ人とわかるとセックスできない、ってどー言う意味なんだろうと、いまだに解けない謎がある。そんな頃、この原作を読んだ。観る機会がなかなかなくてようやく。

案内人佐藤慶に導かれて成功の階段を上っていく渡哲也。次に導かれたのはレコード会社。そこで紹介されたのが社の実力プロデューサー艶歌の竜こと芦田伸介。僕は艶歌なんか嫌いです、などと言っていたのだが彼の所作に感じるものがあったのか、チームの一員となりレコード製作を学ぶことになる。

そんな物語のほかに、渡哲也にはもう一つのドラマがある。かつてコピーライターとして関係のあった広告会社の牧紀子との愛欲。詳細は忘れてしまったけれどある夜ふたりはホテルで結ばれ、渡哲也は結婚を申し込む。牧紀子は承諾するのだが、その夜、車と共に海に入り自死する。え、何が何だかわからない、と思いつつ渡哲也は流れ流れていくのです。そして、その果てで出会うのが佐藤慶の秘書役松原智恵子。彼女は、牧紀子の妹。牧紀子、松原智恵子の登場シーンは、艶歌の竜との物語とは異なって実にシュールに仕上げています。浮いているといってもいいくらい。

佐藤慶と芦田伸介の戦い。レコード売り上げ低迷の原因を探るための路線検証。ポップスか艶歌か。佐藤慶は渡哲也に団次郎を預ける。芦田伸介は盛り場で見つけた水前寺清子で勝負する。この作品、レコード会社のクラウン・レコードが提携していることもあり、水前寺清子、黒沢明とロス・プリモス、青山ミチ、一節太郎、笹みどり、美川憲一が歌っております。

さて、団次郎と水前寺清子。団次郎って歌手だったのかと、しかし野暮ったい振り付けで「バラの恋」を歌わされていてとても観てはいられません。方や水前寺清子。幼い頃の視覚的記憶の影響か堂々としたもので「いっぽんどっこの唄」を楽し気に歌っています。そして権謀術数渦巻く歌謡界ドロドロの戦いの果てに芦田伸介は敗れ、社を去ります。艶歌の竜と言われていますけれど、実は彼、上野の学校を出ている芸術派なんです。企業を渡り歩き海千山千の佐藤慶の敵ではありません。

何が何だかわからなかった牧紀子の死も佐藤慶の不用意な一言がその謎を解くカギとなります。牧紀子のカラダを堪能し、ときめかなくなると棄てる、そんな男だった。そして自暴自棄になった牧紀子は渡哲也に誘われるままホテルに入りセックスし死んでいったのです。いや、よくわかりません。漫画チックな可愛らしさのある松原智恵子とは違う冷たい美しさを持つ牧紀子が、そう容易く死んでしまうとはとても思えぬ。わたしには謎なんですが、渡哲也も松原智恵子も納得します。いけ図々しくも佐藤慶までそれを肯定するのです。
 
1968年製作公開。原作五木寛之。脚色池上金男。監督舛田利雄。

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