ゆり

激突!のゆりのネタバレレビュー・内容・結末

激突!(1971年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

まず、ほんとに演出と音響の力はすごいなと思った。
出てくるものもストーリーもとてもシンプルで殺人鬼の車バージョン、といった感じだけど、最後まで飽きさせずにハラハラする展開、魅せ方をするのがほんとに流石だった。
ずっと同じような風景、出てくる人物もほぼ変わらずセリフもほぼ無く、2台の車の逃走劇だから、普通ならカットが似たようなものになって尺も持ちそうに無いのに、この作品はあらゆる切り取り方、撮り方、BGMの切り替えを効果的に行っており、それによって迫り来る緊迫感を観ている側もダイレクトに感じることが出来るようになっていた。


トラックのフロントからの広角煽り、思いっきり回転するタイヤのドアップ、タイヤが踏んづけた草がカメラにぶつかるカット、両車の追いかけっこの時、同じアングルで揺れる車体を捉え、カメラ自身も大きく揺れるカット等々…
緊迫感、スピード感を表現するためにあらゆる構図が用いられており、構図、編集、音響共に今後の参考にしたい。


また、最後まで相手の運転手はあくまで「手しか見えない」というところがより怖さを増していた。まるで見せないわけでもなく、身体の一部は見えている、ということが殺人鬼を車というただの機械でもなく、そして人間、というはっきりしたものでもなく、「どちらともつかない恐ろしいもの」という存在に仕立て上げていたように感じる。

相手のドライバーは「そこまでするか!?」と思うくらいに主人公に執着し本当に殺そうとしているようで、何度も気持ち悪さを感じた。普通の人vs 人ではお互いの動ける距離や隠れやすさ等もあり、相対してからは比較的短期決戦になりがちだと思うが、この作品では車 vs 車、かつ場所は逃げ場のないほぼ一本道の道路ということで、だからこそこの、「作品中ずっと追いかけられる」という構造が成り立っているし、逃げられもしない怖さを感じられるようになっていた。殺人鬼が車であることをしっかりと活かせていた。

そして最後。
あの感情の移り変わりをセリフも何もなしで、よく途切れることなく綺麗に描けたなと思う。
最初は「敵を倒した!」という喜びで舞い上がっていたものの、徐々にそこには人がおり、自分のせいで人を殺してしまった、という葛藤が現れてくる。ここも、また演出のいいところだった。
主人公が自分の車をぶつけて相手の車は前が煙で見えなくなるところ。ここでようやく相手視点で操作する手元が映る。必死になんとか操作する様子が入り、その後画面引いて、殺人鬼の最期は「車の落下」という形で描かれる。
ここの一瞬のドライバーの手があるからこそ最後が「車の落下」という現象だけでは済まされない事実を感じさせるし、かといって落ちる時はあくまで「車の事故」として客観的に描くことで、この作品の殺人鬼は車であったことをブレずに描いている。
そして観た側も、重要な最後が敢えて客観的になるからこそ、その事実をまさに今目の当たりにしているかのような衝撃を受ける。
その後主人公の喜ぶ顔を見て複雑な気持ちになりつつ、車のパーツが少し慣性で動いた後停止するところで、主人公と感情が一体化し、最後のエンドロールで一緒に座り込んで石を投げたい感覚になる。

最初から最後まで、一緒に歩んだ作品、という感じがした。
とてもいい映画だった。
ゆり

ゆり