荒野の狼

男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎の荒野の狼のレビュー・感想・評価

4.0
『男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎』は、1984年公開の男はつらいよシリーズの33作目。私は地元が岩手県であるが、「男はつらいよ」では本作がロケ地になった唯一の作品。同シリーズは、高知県と富山県を除く全県でロケが行われているので、岩手県民には、本作は貴重。実際に本作に出てくるシーンを訪れようとすると、盛岡市にある中津川の「上の橋」と「盛岡城址」、登場する祭りとしては花巻の鬼剣舞があり、また一瞬ながら岩手山が背景に映るのも嬉しい作品。ただ、岩手県が登場するのは冒頭のみで、本編では舞台は北海道になってしまうのは残念。
本作は、寅さんと同様の渡世人としてサーカスのバイク乗りの渡瀬恒彦がユニークで、寅さんと一対一の話し合いは迫力がある。映像シーンとしては描かれなかったが、本作の結末を見ると、寅さんは、先輩の渡世人として渡瀬に「話をつける」ことに成功している。寅さんと渡瀬の会話、マドンナ中原理恵と渡瀬の関係を、もう少し丁寧に描いていれば、作品に深みがでただけに惜しい。第一作から登場していた寅さんの舎弟の登(演、本作では芸名は秋野太作、これまでは津坂匡章、まさあき)は、青森県出身の設定であったが、本作ではテキ屋稼業から足を洗い盛岡で妻子を持って暮らしている。本作で寅さんは准レギュラーと言える登に、彼の幸せを願って別れを告げる。渡世人を続ける寅さんと渡瀬に対し、足を洗って家庭を築いた登を対照させれば、中原理恵を堅気の人間に嫁がせたい寅さんの思いが強調された形となったはずなので、登一家の登場は、本作の後半がふさわしかったかもしれない。
他に、本作ではタコ社長の娘あけみ(演、美保純)が自身の結婚という設定で初登場しているが、シリーズとしては、常連となる美保の登場は映画に花を添えることになり重要。なお、佐藤B作や着ぐるみの熊が登場し、コミカルな要素が加わっているが、ストーリー全体とはつながりがない。この部分に割いた時間を、渡瀬の登場シーンに使えば名作になり得た作品。
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