イチロヲ

生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言のイチロヲのレビュー・感想・評価

4.5
社会から干された気弱な学校教諭と、故郷から見捨てられたストリッパーの女が、とある原発の町であらたな人生を開始しようとする。原子力発電所にて低賃金で雇われているパート労働者・通称「原発ジプシー」を題材に取っている、ヒューマン・ドラマ。

原発、行政、暴力団の癒着から、校内暴力、出稼ぎ労働者、米軍基地に至るまで、当時の日本の争点をふんだんに盛り込んでいる作品。だが、それらを全否定するのではなく、不条理の中で生き抜こうとする「人間そのもの」に主眼が置かれている。

社会派に位置する作品なのだが、森崎東監督の力の抜き加減が非常に巧みなため、重いテーマが低い質量でフワフワと頭の中に入ってくる。何とも珍妙な感覚を味わわせながら、問題提起をサラリと投じてくる、いぶし銀のテクニックが冴え渡っている。

気弱な先生がふと見せる妄想世界や、墓穴から生還する泉谷しげるなど、箸休め的に笑えるシーンあり。総合エンターテインメントとしても高い完成度を誇っており、80年代インディーズの白眉ともいうべき逸品。
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