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内海の輪のtackyのレビュー・感想・評価

内海の輪(1971年製作の映画)
3.8
松本清張の原作は、主人公の大学助教授の男の不倫を始末する犯罪と、功名心からやがて崩壊していく様を巧みに描いたサスペンスであるが、
この作品はサスペンス部分を一切排除して、むしろドロドロの不倫ドラマで、とにかく岩下志麻の美しさを愛でる作品である。
よって、脚本家の二人から「これは我々の作品とは別物」と絶縁状をたたきつけられた作品である。(斉藤耕一監督は、脚本どおりに撮らないので有名で、当時色んな脚本家から嫌われていた。)

スチールカメラマン出身の斉藤監督らしい、夕日に映える瀬戸内、倉敷の黒壁、尾道の坂道、蓬莱峡の白さなど、美しい構図満載の作品だ。
キラキラ輝く内海を、無言で歩む二人の孤立感が美しくも哀しい。

最後、覚悟を決めて死装束に着物を選び、それまで後を着いていた岩下志麻が、先頭にたって道行に歩を進めるラストは、哀しくも素晴らしいシーンだった。

ボディダブルをほぼ使わずに、「影の車」の時もそうだったが、体当たりの濡れ場を演じ、クライマックスの蓬莱峡では、泥まみれになって崖を上がる、岩下志麻の演技が鬼気迫るものがあった。

この妖艶な魅力は、たとえ兄嫁とわかっていても、一度誘われたら誰も逃れられない美しさだろう。
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