垂直落下式サミング

やくざの墓場 くちなしの花の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.0
「法・治 ○ 安・寧」
品行方正が求められる警察権力からはみ出してしまったアグレッシブな不良警官物語の典型で、やくざと癒着した警察上層部の利権でずぶずぶの現状や、警察官の天下り先の会社と対立なんかも描かれ、国家権力の汚さも暴力団の汚さも、徹底した救いのなさで描かれる。
無情なストーリー。主人公の正義感が何一つ実を結ばず、最後に一矢報いることもなく、とことん負け続けてしまう。素行は悪いが不正と不徳を許さない善意があるために警察組織や社会に反目し、それが仇となり刑事からゴロツキ、そして負け犬へと堕ちていく様子をまざまざと見せ付けられる。
本作がもうひとつ描いているテーマは日本社会における被差別者の存在だ。主人公は太平洋戦争後に帰国した大陸からの引揚者で、また彼と義兄弟の契りを交わす梅宮辰夫が演じるやくざは在日朝鮮人であり、ヒロインの梶芽衣子は朝鮮人と日本人のハーフであるなど、社会に居場所のないマイノリティなルーツをもつ登場人物たちが結託し、汚い社会に汚い手段で仇を為そうとするさまがエネルギッシュに描かれている。
日本は一応は単一民族国家ということになっているが、一般人の生活と地続きのところに血筋や家柄のせいで他と同じように扱われない人たちも一定数暮らしているわけで、彼等への差別はずっと存在している。見ようとしていないだけだ。無意識にしろ故意にしろ、誰もがずっとそこに存在してきた迫害や弾圧に荷担しているのだと、我々からすればあまり気分の良くない現実を掬い上げているのは、みていて辛い。
アクションが炸裂するのは柔道場。未経験者まるだしの危ない一本背負いのあとに、渡哲也がはなつ綺麗な払い腰に見惚れてしまった。
主題歌「くちなしの花」は映画の内容にほとんど関係ない。曲がヒットしたからサブタイトルとしてくっ付けてる説が有力だ。