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天国の門のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

天国の門(1980年製作の映画)
3.6
『天国の門』(原題: Heaven's Gate)1980
ユナイテッド・アーティスツ(現MGM)

ユナイテッド・アーティスツを倒産させた映画として悪名高いが見終わった後の満足度は高い。

ネイト(クリストファー・ウォーケン)「農民を処刑するなら全員の令状が必要だろう。今すぐ令状を見せろ」
ビリー(ジョン・ハート)「すべてが対等な時は法に近い方が勝る」
ネイト「お前らは最低だ」
フランク「私の祖父はハリソン大統領の陸軍長官だった。その弟はニューヨーク州知事。私の義兄は国務長官だ。つまり私の意思は合衆国と大統領のそれと同じなのだ」
ネイト「全員お前と同じクソだ」
フランク「君を雇ったのは法律の執行をさせるためだ。そして我々が法律なのだ」

フランクを演じているのはサム・ウォーターストン。『華麗なるギャツビー』(1974)の語り手ニックだ。太く下がった眉毛が安倍晋三そっくり。名門である我々が法律なのだと抜かすのも安倍晋三そっくり。

「甲冑が騎士を作る。王冠が国王を作る。我々は何から作られる?」

銃からに決まっている。アメリカ人は銃が作った。英国と戦争して独立して先住民を殺して居留区に閉じ込めて土地を奪った。いつも銃がアメリカ人と共にあった。

1890年代。ホームステッド法が施行されて農民は西部の原野を切り取って自分の土地と宣言することができた。

しかし牛を放牧させて水を飲ませて草を食わせたい家畜業者には開拓民は邪魔な存在だった。今まで自由に通行できた土地を農民が自分の土地だから入るなとか言う。ふざけるな、後からきやがって何様のつもりだ。目障りだ、始末してしまえ。家畜業者達は傭兵を雇って開拓農民を殺していった。

これが映画のモデルとなった「ジョンソン郡戦争」のあらまし。

実際の闘いは数人対数人の銃撃やいつの間にか人が行方不明になると言う感じで映画の様な大規模戦闘は無かったらしい。

『天国の門』では開拓農民がロシアや東欧から食い詰めてやってきた貧しい人々としては描かれている。

同じ題材を扱った『シェーン』の開拓民一家は綺麗な英語を話すし奥さんは王妃のように美しく息子は愛くるしい。

『天国の門』の開拓民は片言の英語を話す茶色く汚れた人々だ。

「あなたの様な金持ちがこの国の変化の芽を積んでしまったんだ。金持ちはみんなが豊かになる様な変化に反対してきた。東部の投資家達と組んで牧草地でひと稼ぎ企んでいる。金持ちは貧乏人が政治などに口を出すなと思ってるんだ」

ダニエル・チブルスキーに良く似た男性が片言の英語で農民達に訴える。マイケル・チミノ監督が訴えたかったのはきっとこれだ。そしてアメリカ人に評判が悪かった原因の一つもきっとこれだ。

東部のエスタブリッシュ階級が畜産業者に命じて傭兵を雇ってロシア・東欧の移民を虐殺した話なんて見たくない。西部劇で自分の罪を懺悔させられるなんて嫌だ。

凄惨な闘いの場面は涙が出そうになるが史実ではこんな虐殺はなかったから途中で涙が引っ込んでしまった。無かった大量虐殺を見せつけられたのもアメリカ人に評判が悪かった原因かもね。

チミノ監督はイタリア移民の息子。ニューヨーク産まれ。スコセッシやコッポラやデ・ニーロと同じだ。先に移民してきたアングロサクソンが政治や企業を支配するアメリカ社会。イタリア系移民が生活の場を獲得していく大変さは『ゴッドファーザー』で描かれた通り。

チミノ監督の怒り、熱い思いがこの映画を作らせたのだな。だから終盤ジム(クリス・クリストファーソン)はフランス系移民のエラに「君たちがこの国で生きていけ。もう私たちの国ではない」と言ったのか。そしてラストのサムの姿は結局「非アングロサクソンに手を差し伸べてみたアングロサクソンエリートの末路」だったのか。

・ハンガリー出身のヴィルモス・ジグモンドが撮影した西部はまるでヨーロッパみたいな、くすんだ色調。農民が働く場面はミレーの『落穂拾い』そっくり。この映画は全てのショットをマジックアワーに撮影したらしい。フォグマシンと粉塵を大量に用意して1日10分くらいしか撮影出来ない。予算オーバーするわけだ。

・気前よく脱ぐイザベル・ユペールが川で水浴するところはシャバの『九月の朝』と同じポーズだ。

・移民達が集会所「天国の門」でローラースケートを履いてワルツを踊る場面の移動撮影が美しさと楽しさに溢れている。
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