かすとり体力

夢売るふたりのかすとり体力のレビュー・感想・評価

夢売るふたり(2012年製作の映画)
3.5
「ゆれる」に心根をぶち抜かれ、敬愛している西川美和監督作品。

西川作品の特徴として、人格の表層に現れるものとは全く異なる内面的情動が、時に暗示され、そして時には爆発し、その空恐ろしさをまざまざと見せつけられる、というところがあると思う。
そして本作は特にその色が濃い。

今回の、その「ぞっとさせてくる」プレイヤーは松たか子。彼女、本当に素晴らしい。こんな演技できるのね・・・。
内面的情動が明らかに良くない方向に向かっているのが、暗示を超えたレベルで匂わされ、「うおー爆発するの!?しないの!?どっち!?」ってドキドキ。

そういう意味では西川作品のコアなところを純度高く味わえる作品だと思った。

あと、私、阿部サダヲ氏にあまり良い印象を持っていなかったんだけど、本作での彼はすごく良かった。やっぱり達者ですね。

ただ、手放しで褒められないところもあって。

上述のとおり、松たか子演じる「里子」の内面を匂わせることに重きを置きすぎたのか、「里子」の表層的な人格自体がいまいち掴みづらい。
表の人格がある程度簡単に理解できそうなやつが、「お前、実はそんなこと考えてたのか・・・」というところがゾッとするためのポイントにつき、いまいち落差が感じられず魅力を損なっていたように感じた。

あと、ところどころ、シナリオが雑過ぎないか?

「夫は心に隙間を抱えた女性にモテる」と気づき、そこから計画を実行していくあたりに強い唐突感があるし、何よりクリティカルなのは、最後の子どもの行動の突拍子もなさよ。
そんなことになるわけない、というところでリアリティを大幅に棄損してるのと、リアリティの論点を別にしても、展開が物語上の必然性に乏しすぎて、カタルシスの得ようがない。

っていうところで、まとめると、西川節のコアなところを味わえる良作だが、ところどころもったいない、といったところ。

とかまぁ偉そうに言うてますけど、まだ「素晴らしき世界」見てないのよね。そちらを楽しみにしつつ、次は「ディアドクター」。
かすとり体力

かすとり体力