藻尾井逞育

熱帯魚の藻尾井逞育のレビュー・感想・評価

熱帯魚(1995年製作の映画)
4.0
「長い人生、夢だけでは生きていけない。今の自分を大切にして、まっすぐに自分の道を進んでください。」

台北で暮らす夢見がちな中学生の主人公は、受験を目前に控えたある日、誘拐事件に遭遇し被害者の少年と一緒に連れ去られてしまう。事件報道が過熱する中、南部の漁村で誘拐犯一家と不思議な時間を過ごします。

台湾も学歴社会で、真夏の暑いさなかに行われる高校受験は大変そうですね。合格ラインまで届かず、受験なんてどうでもよくなっていたところ、受験まであと◯日といった事件報道や、犯人家族にまで受験のことを気づかわれたりと、主人公は違和感を感じます。でもそれは、主人公がやがて足を踏み入れる大人社会が、学歴による格差問題だったり、地域による貧困問題といったなかなか解決できない現実を多く孕んでることをみんなが知っているからこそなんでしょうね。夢だけでは生きていけない。でも夢をなくして自分らしさを失っても生きてはいけない。主人公をはじめ登場する全ての人たちを見る監督の目は、どこまでも優しさに溢れているようです。
夢をみることが今こそ大切になっているのかもしれません。自分も社会人になって、自分の夢と思っていたものが単なる目標に置き替えられてしまい、あらためて自分の夢って何なんだろうと考えることがあります。日々下を向いて暮らしてることが多いかもしれませんが、ふと上を見上げれば多くの夢を食べた熱帯魚がゆっくりと上空を泳いでいるのが見えそうです。

2024/04/03

この映画のロケ地、嘉義県東石郷は牡蠣の養殖が盛んな場所ですが、台湾大地震後に海岸線の地盤沈下が始まり、満潮時には道路など一帯が海水で覆われるようになったとのことです。映画では水浸しの食堂で食事をするというちょっとシュールな光景も見られます。今回の大地震でまた景観が変わってしまわないか心配です。

台湾加油!