hayanomidori

未来世紀ブラジルのhayanomidoriのレビュー・感想・評価

未来世紀ブラジル(1985年製作の映画)
1.0
ジャケ写の奇妙さに惹かれて初鑑賞。中身はもっと奇妙でした。

絵面が斬新、出て来る人たちがエリートと超富裕層だらけ、白人以外の登場人物は主人公サムの夢に出て来る戦国武将風の怪物や能面風の御面を被った悪者だけ、やたらとダクトと怪我人、身体障害者がいっぱい出て来る。

タイトルの「ブラジル」は、選曲が昔のヒット曲「ブラジル」なだけで他にブラジル要素は一切無い。

未来世紀とあるが、未来風なのはレストランのメニュー表やオフィスのモニタが液晶画面っぽい所くらいで、色々と造り込んだセットや小道具はどちらかというと20世紀前半の工業製品っぽいデザインで統一されている。設定が「20世紀の何処か」ということで、未来というよりパラレルワールドが描かれていて…

1. 徹底した超管理社会なのに、1文字違いの人違いでテロリストと間違われ、いきなり自宅に特殊部隊が突入、有無を言わさず捕まって亡くなる市民。誤認逮捕後の補償は、逮捕勾留に掛かった諸経費として徴収された金額を変換する小切手1枚のみ。

2. コンピュータ管理なのに、コンピュータはデータベースの入出力にしか使われていなくて、セキュリティが無く常時だれでも書き換え可能で、そのログは追跡できないから、やりたい放題。

3. 美容整形の発達で、若返りの手術が成功すると表面だけでなく本当に若者になってしまう。失敗すると合併症が重なりドロドロになって死ぬ。

…という、作者の悲観と恐怖心で空想した世の中の暗い行末を誇張して描かれた作品なのかなぁ、と思いました。

1.は日本だと慎重なので有り得なさそう。
2.は最近の日本でもマイナンバーで起きましたね。住民票をコンビニ印刷すると別人の住民票が出力されるという。
3.も有り得なさそう。美容整形は何処まで行っても表面の更新に留まって、体の中身から若者になるほどの医療の発達は当面望めないでしょう。老化を少し遅らせることは出来ても。

2024年の今ならそう考えますが、1985年当時は1.と2.は特に日教組の先生が授業中に良く語ってました。社会保険番号のデータベース化による弊害の可能性として反政府派に浸透した定説だったようです。

この映画の作者もまたアメリカ産まれのイギリス人になって最終的にアメリカ国籍を捨てたそうなので、反政府派として言いたいことが山ほどあったんでしょう。公務員という存在に敬意が微塵も感じられない描き方をしている点からも、公務員=権力側という設定で彼なりの仮想の敵と闘い続けることが生きるモチベーションになっていたと推測します。

芸術に政治を持ち込むと碌なことにならない典型例でした。
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