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ミツバチのささやきの傘籤のレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
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映画を通して少女が世界を発見する映画。だからこの映画はあらゆるシーンがアナにとっての清新さに溢れており、その意味でセンスオブワンダーに満ちている。同時にこれは「原風景」についての映画でもあり、1940年代、スペイン内戦の傷が癒えないままのトスカーナ地方には牧歌的で広大な大地が広がっている。地平線の高さを変えて人物や時間を表したショットの”映画性”、登場人物の繊細な心情を表現したひかえめなサウンド、光と影を駆使し美しく調整された画面作り。無駄な台詞は極力排除され、凝縮された映画的空間は、私たち自身にこの映画を通して「世界を発見する」機会を授けているようでさえある。その感触は、幼少の頃に火のゆらめきを食い入るように見つめた時のような、水の冷たさ心地よさに夢中になるような、知らなかった世界を知る感覚に近く、その純粋さに「身に覚え」があるからこそ、こうまで胸打たれてしまうのだろう。

10代のころ初めて鑑賞して以降、映画館で観るのは初めてだったけれど、自分が年を重ね、数多くの作品を観てきたこともあって格別の体験だった。かつては気づかなかったけど、これほど映画的な映画だったとは。『フランケンシュタイン』を見つめるアナの目はあまりに無垢で印象的。リュミエール『列車の到着』に対するオマージュがあれば、絵画(レンブラントかな)を断片的に見せることでイメージをより深化させていたり、昔観たときはわからなかった映画的技巧やオマージュがあらゆるシーンに見受けられる。
それは映画愛の発露なんて子どもっぽい意味合いからではなく、これが上記した「映画を通して少女が世界を発見する映画」だからなのだ。だから”精霊”と出会った少女は、最後に自分の名前を繰り返す。
「わたしはアナ」と。
少女の世界が開かれていく。彼女の目を通して。映画を介して。
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